需要予測支援システム「Forecast Pro」
在庫は現金を倉庫に積んでいるようなものである。お客様満足度を向上させるため発注には即応しなければならないが、過剰な在庫はコストを圧迫する。とりわけ、出口の見えない不況が続く中、適正な在庫管理とコストダウンは急務となっている。そこで多くの企業が高精度な需要予測システムに注目するようになった。
いすゞ自動車様は、国内向けの補給部品(サービスパーツ)について、お客様満足度の向上とコストダウンを両立させるため、2004年から「新需要予測」と称するプロジェクトを発足した。そしてここで採用された需要予測支援システムが「Forecast Pro」である。3年間の受注実績データを分析し、次週以降の受注を予測。この受注予測をもとに在庫基準を適正化し部品を手配することで、目標であった即納率98%とバックオーダー(受注残)半減を達成した。
【写真左】部品事業部 総括グループ グループリーダー 原 和生 氏
【写真右】部品事業部 総括グループ シニアスタッフ 塙 浩司 氏
いすゞ自動車様は、トラック・バスなどの商用車を製造するグローバルな自動車メーカーである。とりわけ中・小型車に強みを発揮し、1tピックアップトラックはアジアやヨーロッパを中心に海外ではトップクラスのシェアをほこる。また小型トラックではエルフが有名であり、国内約40%のトップシェア、海外への主力輸出商品でもある。
小型トラック「エルフ」
原氏
--「ディーゼルエンジン技術にも定評があります。OEMで自動車・船舶・産業用に提供しており、いすゞはトラックとディーゼルエンジンが両軸となっています」と同社 部品事業部 総括グループ グループリーダー 原 和生 氏は語る。
また、車の売れ行きを大きく左右するのが販売後のアフターサービスであると、同社 部品事業部 総括グループ シニアスタッフ 塙 浩司 氏は説明する。
--「車両の整備や緊急の修理の際に必要な補給部品をスピーディに提供してお客様の車両の稼動を確保することが満足度を上げます。これが次の購買につながります。部品をディーラーや修理工場、そしてエンドユーザーに速やかに届ける事が、我々部品事業の使命です」(塙氏)
主な補給部品
エンジンやその構成パーツ、ワイパー、ドア、窓ガラス、さらには荷台全体まで、自動車を構成するすべてが補給部品であり、同グループでは150万点の補給部品を管理し、3年間で20万品番以上の幅広い点数の受注があり、在庫点数は18万点にも上る。中にはエアコンやサーモスタット等のように季節で動きが変わる季節変動部品や、車のライフサイクルによって動きが変わるトレンド部品もある。
--「難しいのは在庫の管理と部品生産の発注です。サービスを向上させるためとはいえ、余分な在庫はコストを圧迫します。だからといって、在庫を切らしたり、納期を待たせたりするとお客様満足を得ることはできません。バランスが大切なのです」と原氏は強調する。
適正な在庫を維持するために欠かせないのが正確な「需要予測」だ。2004年、この需要予測に本格的に取り組むために発足されたのが「新需要予測」プロジェクトであった。背景には全社的に進めていた路上故障撲滅運動、部品即納率の向上、人手による需要予測作業の負荷軽減があった。
塙氏
同社がコンピュータによる需要予測に着手したのは初めてではない。1990年前後から段階的に挑戦したが、当時はソフトウェアの能力不足もあり、過剰在庫になることもあり、いくつかのパッケージを試してみたが、なかなか満足のいく効果を出せずにいた。結局、移動平均をもとに担当者が最終的に調整するやり方を10年以上続けていた。
--「季節変動部品は切らすことが多く、その即納率は需要期には90%台前半まで落ちました。また、上昇トレンドの部品も予測が難しく、即納率は平均で95%~96%程度でした」と、塙氏は振り返る。
また、当時は在庫の管理と発注のかなりの割合を人手に依存しており、負荷が大きいうえに、属人的になり、標準化と技術の継承が困難であった。
「新需要予測」プロジェクトの目標は、
--「季節変動部品およびトレンド部品も含めて、即納率98%以上。また、当時はバックオーダー件数が常に6000件以上ありましたが、これを3000件に半減することが目標となりました。この目標は当時の井田社長(現会長)から下され、部品事業としては至上命令でした。もちろん在庫金額も低減、わるくても現状維持が求められました」(塙氏)
プロジェクトチームはコンサルティング会社に相談し、当初は手作りのシステム開発を構想した。
全社的な期待を背負って進められた新プロジェクトであったが、そのコストが明確になって社内から疑問の声が上がるようになった。想定の金額をはるかにオーバーする見積もりがベンダーから寄せられたのである。
こうして「新需要予測」プロジェクトは暗礁に上がってしまう。こんなときに、塙氏が思い出したのが「Forecast Pro」であった。塙氏が需要予測パッケージ製品を試していたときに、購入していたものだが、本格的な検証には至っていなかった。
--「『Forecast Pro』で季節性・トレンドを反映した需要予測をおこなうには3年分の週単位の受注実績が必要でした。その頃は半年分ほどしかデータが蓄積されておらず、不完全なままに検証を終わらせていました」(塙氏)
「新需要予測」プロジェクトを発足させたことで、すでに3年分の受注実績データは揃っていた。これは試してみる価値があるかもしれない、ということになり、まずは購入済みの既存パッケージで試してみたところ、その検証結果は、驚くほどの高精度であった。
--「急ぎ、日立ソリューションズ東日本に連絡を取りました。5年前に実験的に購入したのがスタンドアロンの製品でしたので、ホストシステムと連動できる実践的なシステム構築の相談をしました」(塙氏)
しかも、「Forecast Pro」をベースでシステム開発すると、手作りと比較しコスト的にも極めて低く収まることがわかった。
2005年5月には導入を決定し、5ヵ月後の10月には新需要予測システムが完成した。
--「いきなり稼働を開始したわけではありません。翌2006年2月まで検証しつつ、運用プランを組み立てていきました。『Forecast Pro』の良い点だけでなく弱点も把握し、その上で利点を上手く活用し、最も高いレベルの需要予測値を手に入れることができるようにしました」(塙氏)
--「効果はすぐに現れました。数ヵ月で即納率98%、バックオーダー件数半減を達成しています。バックオーダー件数3000件以下の実績は定着し、その後2000件以下を目標としています」(塙氏)
もちろん人手の作業負荷も大幅に減少した。需要予測は特定の人に依存した職人技ではなくなり、標準化された業務となっている。
「Forecast Pro」を導入して大きな成果を得たいすゞ自動車様であるが、成功のポイントはどこにあったのだろうか。
--「1つ目として、すべてに万能ではないという割り切りです。予測が当たる部品と当たらない部品があり、これを見極めなければなりません。当たらない部品は従来方式を使うなどの判断が必要です」と、塙氏は指摘する。同社では、過去3年間の週別受注実績から需要を予測し、誤差の少ないものは自動的にホストの発注システムにデータを転送する。誤差の大きなものは、担当者がチェックのうえ、発注システムに渡される。
2つ目のポイントとして、塙氏は定期的な見直しを勧める。
--「予測精度を、毎月、過去3年に受注が1度でもあった全部品、約20万点を検証しています。半年前まで当たっていたのが、ここ1~2ヵ月で当たらなくなることがあっても不思議ではありません。期待する精度に達しなくなったら、自動的に予測する部品、そうでない部品を再判定しています」と語る。
3つ目のポイントが異常値の管理だ。自動的にホストシステムに転送されるデータであっても、異常値があった場合は、人間系のチェックに回される。
異常値チェックには予測誤差標準偏差やMAPE(平均絶対誤差率)の変化をみるもの、指数平滑法の時に自動で設定される平滑定数の重みをみるものなど、5種類のアラートを設けた。例えば平滑定数レベルオーバーというアラートは直近需要変動に敏感に反応し過ぎ、異常な需要予測値をだす可能性があるものを抽出するもの。
OEM向けや入札など一般修理需要以外の受注が急増した場合、その勢いで受注が増えると誤って判断してしまうのである。
--「異常値のチェックを最重視し、システムで如何に自動的に異常を検出するかの仕組みづくりに注力しました」(塙氏)
--「今は新しいレベル、長期的な予測、例えば10年スパンの需要予測に挑戦しています」と、塙氏はこれからの抱負を語る。
車は生産終了後も車両がある限り部品の継続的な安定供給が求められる。だが、生産終了後の自動車の部品受注は極めて不安定で年が経るにつれ頻度が低くなり予測が困難なる。
だからといって注文が発生してから都度生産していては、コスト高になることもある。
このため、これから10年あるいは20年先の需要を予測して、継続生産をいつまですべきで、何時まとめて部品を生産した方が効率的かの判断が必要となってくる。このまとめ生産するタイミングと数量を知りたいというのである。
また、海外でも展開したいと原氏は語る。
--「これまでお話ししてきたのはすべて国内に限られています。部品は、現在は、国内と海外では55対45の割合ですが、近い将来逆転すると予想されます。海外の方が、市場が大きいのです。そこで海外市場の需要予測の検討も進めています」(原氏)
残された課題を解決するため、いすゞ自動車様と日立ソリューションズ東日本は、新たな可能性に挑戦している。
社名 |
いすゞ自動車株式会社 |
---|---|
設立 |
1937年4月(創業1916年) |
本社 |
〒140-8722 東京都品川区南大井6-26-1 大森ベルポートA館 |
資本金 |
406.44億円(2009年3月末現在) |
従業員数 |
【連結】24,257名 【単独】8,217名(2009年3月末現在) |
東京石川島造船所自動車部門として創業し、日本の自動車メーカーとしては最古の歴史を持ちます。「いすゞ」の名前は、1934年に商工省標準形式自動車を「伊勢神宮の境内に沿って流れる五十鈴川」に因んで「いすゞ」と命名。これが「いすゞ」の社名の由来となっており、1949年に商号を現在の「いすゞ自動車株式会社」に変更しています。
小型トラック エルフ(ELF)、中型トラック フォワード(FORWARD)、大型トラック&トラクタ ギガ(GIGA)、大型観光バス ガーラ(GALA)、大型路線バス エルガ(ERGA)、CNG車(エルフ、フォワード、バス)、ハイブリッド車(エルフ)、そして大型・小型ディーゼルエンジンを生産。「商用車とディーゼルエンジンのグローバル・リーディング・カンパニー」を目指しています。
大型トラック&トラクタ ギガ(GIGA)
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