需要予測支援システム「Forecast Pro」
「在庫で始まり在庫で終わる」という言葉があるように、在庫は企業の収益とキャッシュフローに多大な影響を与える。在庫が少なければ欠品リスクを招き、在庫が多ければ利益を圧迫する。とりわけ製造業では、在庫の適正化が重要な課題となっている。
この課題をクリアするため、株式会社ツムラ(以下、ツムラ)様は需要予測ソリューションに注目し、日立ソリューションズ東日本の提供する需要予測システム『Forecast Pro』を採用した。
同社では、過去の実績から対象とする商品を1年分需要予測したところ、99.5%の高精度な予測を記録。この数値を起点に、調達から生産、販売・物流に及ぶSCMを展開している。さらに、未来のリスクを見える化し、経営判断の材料の一つとして、経営層への提供を目指している。
【写真左】株式会社ツムラ 情報技術部 部長 佐藤 秀男 氏
【写真右】株式会社ツムラ 物流企画部 部長 杉井 圭 氏
佐藤氏
「漢方」が注目を集めている。テレビや雑誌でも特集されることが多くなり、一般消費者向けのセミナーを開催すると健康志向の女性が多く集まる。すでに国内の大学医学部・医科大学のすべてにおいて漢方医学の講義が導入され、その充実化が進んでいるほどだ。
漢方医学は、中国を起源とする医学が伝来し、日本で独自の発達を遂げた日本の伝統医学である。ちなみに中国の伝統医学である「中医学」で使用される薬は「中薬」と呼ばれている。
漢方製剤のトップメーカーが同社であり、「漢方のツムラ」といえば、日本では知らない人はないであろう。
--「ツムラは2013年4月に120周年を迎えました。“自然と健康を科学する”を経営理念として事業を展開し、医療用漢方製剤(医療機関から処方される漢方薬)で日本国内シェアの8割以上を占めています」と、同社 情報技術部 部長 佐藤 秀男 氏は説明する。
犬飼氏
同社では119種類の生薬(原料)を組み合わせ129種類の医療用漢方製剤を製品化している。中には治療効果のメカニズムが現代科学で立証される医療用漢方製剤もある。例えば抑肝散(ヨクカンサン)は、子供の夜なきやひきつけなどに用いられてきたが、近年では認知症の周辺症状(不眠・興奮など)の改善効果が報告されている。
原材料の多くは農産物であり、国内外の契約農家から仕入れている。医療用の原材料として、一定の基準が定められているが、同社ではそれを超える厳格な基準と徹底した品質検査を実施している。
--「当社の経営理念に“科学する”とありますように、西洋医学と相容れないものではありません。漢方医学と西洋医学を融合することで、最高の医療提供に貢献することを目指しています」と、同社 コーポレート・コミュニケーション室 広報グループ グループ長 犬飼 律子 氏は語る。
生薬(原料)
同社では医療用漢方製剤を主体としているために薬価基準に売上高が影響される。ちなみに薬価は2012年度に3.8%下落しており、ここ20年で約40%も下落した。この下落を同社では経営改善と売上の向上などでカバーしてきたが、それがいつまで持続できるかの予想は困難である。
加えて、同社では設備投資が続いている。売上向上に対応した新たな施設の建設や、既存設備の移転やメンテナンスで、数百億円規模の投資が予定されている。
--「当社は売上1000億円を回復しましたが、その半分以上の金額の設備投資が中期経営計画で予定されています。経営側としても、今後の売上がどう変化していくのかを高い確率で掴む必要に迫られました」と、佐藤氏は振り返る。
同時に、厳しさを増す経営環境の中、佐藤氏が着目したのが棚卸資産であった。製品在庫および原材料の在庫がである。
--「原材料の在庫が同業他社と比較して、多いのが特徴です。これを見逃すわけにはいきませんでした」と、佐藤氏は訴える。
例えば食品などの製造業では製品在庫が多いものの、原材料在庫は少ない。これに対し、同社では原材料在庫が多いのである。
いかにして原材料在庫を圧縮するか。未来を予測し、必要な原材料を必要なだけ調達するにはどうすればいいのか。
--「未来を見るには2つ方法があるとドラッガーが言っています。すでに起こった過去の実績から将来を予測すること、そして自ら計画し未来をつくること。過去の実績から需要を予測して、生産を計画し、適切な在庫量を維持するのです」(佐藤氏)
同社では販売数量は営業部門が目標値を定め、それを参考にしながら生産部門で生産計画を立案する。さらに、その生産計画を参考にして調達部門では原材料を仕入れる。連携はしているが、個々の部門が独自に判断する割合も大きかった。このため、経営層が将来ビジョンのために需要を予測しようとすると、各部門の数字を調整し、1カ月ほどかかってしまうのが通常であった。差し迫った厳しい経営環境を乗り越えていくには、スピーディで正確な需要予測が求められていた。
在庫の持ち方を変えなければならないし、最終的には仕事の進め方や意識を変革していかなければならない。それには人が繰り返し口に出しても限界があり、客観的な数値で訴えていくべきであろう。佐藤氏は、ITシステムによる需要予測が不可欠と判断して、国内で入手できるソリューションを検討することになった。候補はすぐに見つかった。日立ソリューションズ東日本が提供する需要予測システム『Forecast Pro』であった。
--「他製品との比較も、相見積もりもとっていません。これは使えるのではないかとピンと来ました」(佐藤氏)
佐藤氏は、30年以上にわたりITシステムにかかわっており、第一線で陣頭指揮をとってきた。同社で構築している主要なシステムに関わっており、さらには医療用漢方製剤の製造では世界最大規模の生産量と品質を誇る茨城工場も佐藤氏が企画に関わっている。
--「導入前に日立ソリューションズ東日本から、予測のトライアルをするから実際のデータが欲しいと言われ、秘密保持契約を結んで渡したところ、2カ月後に報告が出てきました。これで確信しました」と、佐藤氏は『Forecast Pro』採用決定の理由を語る。
報告書にはトライアルの概要とともに予測結果がまとめられていた。予測結果のマトリクスには縦軸に予測モデル、横軸に予測精度が示され、4つのレベルで推奨度が区分されている。同社の提供する漢方製剤はほとんどが最高レベル、80%以上の予測精度を記録していた。
また『Forecast Pro』は数字をインプットしてリアルタイムに予測するだけでなく、スケジューラからの起動により日々バッチで予測することもでき、この機能も佐藤氏は高く評価した。報告書が提出されたのは、2012年4月。2カ月後の2012年6月にはForecast Proを導入し、当時経営企画部門にいた杉井 圭 氏(現:物流企画部部長)により活用されていった。
杉井氏
杉井氏は販売実績を入力し、需要予測を計算していった。
--「過去の実績から対象とする商品を1年分需要予測してみました。驚くべきことに年間をとおして99.5%の精度で当たっていました」と、杉井氏は評価する。
営業担当部門が打ち出す販売目標値よりも精度の高い品目が数多くあった。
--「ほんの数秒で需要予測ができるようになり、これをベースに生産計画と調達数量を計算しても、合わせて10分もかかりません。いままで1カ月近くかかっていたのですから、とんでもないインパクトです。まさに目から鱗でした」と、佐藤氏も驚きを隠さない。
ほぼリアルタイムに需要を予測することで、経営層は未来のリスクを見える化することができる。過去の財務諸表ではなく、未来の数値を確認できる。予定されている数百億円規模の投資をどのように実行していけばいいのか、キャッシュをどのように回転させていけばいいのかを判断できるのである。
一方、高い精度には2つの理由があると杉井氏は指摘する。1つ目は同社のシェアが際立って高く、競合他社から受ける影響が限定的であること。2つ目は、漢方薬という製品のライフサイクルが原則無限であること。129種類の医療用漢方製剤を製造しているが、久しく新製品も製造中止もない。もちろん、特許切れもない。
--「通常の製品であれば導入期があり、成長期、成熟期、衰退期があって、売上を維持するために新製品を市場投入していきます。しかし、当社ではこのライフサイクルが存在しません。強いていえば抑肝散のように新たな使用症例が報告されて、売上のベクトルが変わるぐらいです。他社と比較して、需要予測がしやすいのだと思います」(杉井氏)
同社ではSCM(Supply Chain Management)の構築を早くから進めており、受注、出荷、生産、調達、購買、物流、倉庫等のシステムを完成させている。
-- 「2012年にSCMの起点となる需要予測システムを構築し、SCMの基盤が完成しました。Forecast Proが計画の核だったのです」と、杉井氏は強調する。
正確な需要予測により、生産計画を立て、調達計画の最適化が可能となった。物流システムにおける配送センターから各拠点への配荷数量も需要予測システムの数値をベースにしている。
--「これまで各部門で独自にデータを持ち、個々に処理していました。それがSCMを完成させることで、横串で管理できるようになりました。当社グループの事業バリューチェーンができあがったのですね」と犬飼氏も評価する。
とはいえ、漢方の原材料は気候に左右され、定期的に同品質のものが生産できるわけではない。中には栽培から数年を必要とするものもある。さらには、希少価値が高く、市場になかなか出回らず、買いだめが必要な原材料もある。それでも、調達部門での意識改革も進み、在庫の持ち方を変えようという動きも本格化している。
--「しかし、まだまだです。さらに意識改革を徹底し、仕事の進め方を変えていかなければなりません」と佐藤氏の理想は高い。
残された課題の解決も含め、ツムラ様の挑戦は続いている。
社名 |
株式会社ツムラ |
---|---|
設立 |
1936(昭和11)年4月25日 (創業は明治26年4月10日) |
本社 |
〒107-8521 東京都港区赤坂二丁目17番11号 |
資本金 |
194億87百万円 (2013年3月31日現在) |
従業員数 |
単体2,325名、連結2,831名 (2013年3月31日現在) |
国内トップシェアの漢方製剤メーカー。追い求めていくべき不変の基本的価値観である「自然と健康を科学する」という経営理念と、社会から必要とされ存在し続ける目的である「漢方医学と西洋医学の融合により世界で類のない最高の医療提供に貢献します」という企業使命を基本的な理念と位置づけ、理念に基づく経営を実践してまいります。また、今後も医療用漢方製剤のトップメーカーとして、国内のどの医療機関・診療科においても、患者様が必要に応じて“漢方”を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現に貢献できるよう、企業活動に取り組んでいます。
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