製造業に携わる人なら、「安全在庫」という言葉を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
安全在庫は、想定外の需要などに対応できるように保持しておく在庫のことで、変則的な需要が起きやすい業界では、比較的取り入れられることが多いものです。機会損失を防ぐために必要な在庫ではあるものの、製造には材料や製造工程を要するため、保管管理コストや廃棄コストなどがかかります。そのため、安全在庫を持つかどうかは慎重に検討しなくてはなりません。
当記事では、安全在庫を持つメリットや安全在庫の適正な数量の計算方法について解説します。利益を極端に目減りさせないようにしつつ、販売機会を無駄にしないためにも、しっかりと内容を把握しておくことをおすすめします。
安全在庫とは、想定外の需要などに対応できるように保持しておく在庫のことです。安全在庫は、JIS規格でも定義されており、「需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」となっています。安全在庫があれば、販売機会を損失しにくくなります。
これにより、顧客からの信頼を損ねるリスクも最低限に抑えることができるでしょう。
ただし、安全在庫を持つということは、需要にないモノを製造することになるため、実際に需要がなければロスとして扱われる可能性も想定しておかなくてはいけません。
安全在庫と混同されやすいものに、「適正在庫」があります。適正在庫とは、多すぎず少なすぎない、妥当な数の在庫のことを指し、在庫の上限と下限が決まっている在庫です。安全在庫は、絶対に下回ってはいけない在庫の量(下限)のことです。
このため、適正在庫の下限が安全在庫となります。
適正在庫は、基本的に過去のデータをもとに算出します。そのため、販売データや売上見込みといったデータがないと、適正在庫の数を判断しづらい点には注意が必要です。
安全在庫を持つメリットには、さまざまなものがあります。自社の運営方法に基づきながら以下のメリットを確認し、安全在庫を持つ価値があるのか適切に判断しましょう。
【 安全在庫を持つメリット 】
安全在庫は感覚で設定するわけではなく、欠品許容率などさまざまなパラメータを使って設定します。そのため、過度な在庫を持つ可能性を最低限に抑えられるのが特徴で、余剰在庫を回避できるメリットがあります。
ただし、パラメータの設定によっては、在庫は余剰にも過少にもなり得るので、いかに適正なパラメータを設定するかが重要です。
在庫品は、基本的に「現状損失」として計算されることがほとんどで、それは適正在庫であっても変わりません。そのため、過度に持ちすぎた在庫品、すなわち余剰在庫は少ないに越したことはないのです。
安全在庫を持っていれば、販売機会の損失を防げます。販売機会の損失によって失うものは利益だけではなく、商品を購入したいと足を運んだ顧客の信頼を失うことにもつながります。そのため、安全在庫は非常に重要な在庫として認識されることも多いです。
企業を運営していくうえで、もっとも損失してはいけないのは顧客の信頼です。利益を安定させて顧客に寄り添った運営をしていくためにも、安全在庫は可能な限り保持するようにしましょう。
企業の健全な運営をするためには、良好なキャッシュフローの維持が欠かせません。余剰在庫を抱えてしまうと製造コスト、廃棄コストがかかりキャッシュフローの悪化につながります。さらに、過小在庫になる場合は、営業の機会損失が発生し、売り上げに影響します。
在庫品を効率よく現金化して、最低限の損失と最大限の利益を実現するためには、安全在庫が必要不可欠です。
安全在庫は、以下のような計算式を使って、最適な数値を算出できます。
【 安全在庫の計算式 】
安全在庫係数×使用量の標準偏差×√ (発注リードタイム+発注間隔)
計算に必要な各項目は聞き慣れないものが多いため、以下で解説する内容を参考にして算出に役立ててください。
「安全在庫係数」とは、欠品許容率を係数に置き換えた数値です。欠品許容率は、どの程度の欠品リスクなら許容できるかを割合化したものになります。例えば、欠品許容率が5%の場合、「100回中5回は欠品しても許容できる」ということを意味しています。
安全在庫を計算するためには、欠品許容率を安全在庫係数に変換する必要があるため、以下の表を参考にしてください。
【 安全在庫係数の早見表 】
欠品許容率 |
安全在庫係数 |
---|---|
0.1% |
3.10 |
1% |
2.33 |
2% |
2.06 |
5% |
1.65 |
10% |
1.29 |
20% |
0.85 |
30% |
0.53 |
※安全在庫係数は、Excelの関数を使って算出することも可能です。「安全係数=NORMSINV (1-欠品許容率)」
「使用量の標準偏差」は、対象品の需要のバラつき(平均からのバラつき)を意味します。対象品の需要は基本的に一定ではないため、過去のデータを参照して平均値を元にしてバラつきを算出しなくてはいけません。
使用量の標準偏差は過去の使用量(出荷量や販売量)の過去データから算出します。ExcelのSTDEV関数を使えば簡単に算出できますので、利用してみてください。
※STDEV関数は、指定した範囲内の数値の偏差を求めることができます。
「√ (発注リードタイム+発注間隔)」はまず、発注リードタイムと発注間隔を確認する必要があります。それぞれの意味は以下のとおりです。
発注リードタイムは、販売時のルールとして定められていることが多いです。発注間隔については、固定の期間で発注する場合はその期間で問題ありませんが、不定期な場合は「0日」として扱いましょう。発注リードタイムと発注間隔がわかったら、それぞれの期間を足して「√ (ルート)」にする必要があります。「√」の計算はExcelのSQRT関数で算出可能です。
では実際に、例を使って安全在庫を算出してみましょう。
【 条件 】
欠品許容率 |
5% (安全在庫係数1.65) |
---|---|
使用量の標準偏差 |
5 |
発注リードタイム |
5日 |
発注間隔 |
7日 |
上記の条件に基づいて、安全在庫を算出する計算式は、以下のとおりです。
【 計算例 】
計算式:「安全在庫係数×使用量の標準偏差×√ (発注リードタイム+発注間隔)」
実際の計算:1.65×5×√ (5+7) = 28.5788383249
安全在庫数:約29個
安全在庫は利益を最大化するために欠かせないものですが、以下の注意点も考慮しておく必要があります。
【 安全在庫を持つ際の注意点 】
在庫を多くを持てば欠品を防ぐことができますが、最低限の数を確保しておくために持つ安全在庫は、欠品になる可能性がゼロではありません。
また、標準偏差や欠品許容率が適切でも欠品が発生する可能性はゼロにならないため、欠品のリスクがなくならない点は許容する必要があるでしょう。
安全在庫を算出する計算式の理論上、欠品許容率の割合を低くするほど、多くの在庫を抱えることになります。そのため、欠品防止で許容率を下げることは、結果として余剰在庫を生み出す可能性を高めることになってしまいます。
欠品は顧客の信頼を失うリスクがありますが、極端な許容率の設定をしては本末転倒です。本当に欠品を防ぎたいと強く考えている場合には、許容率を小さく設定し、そうでない場合は、許容率は多少大きめに設定する等の工夫をすることが大切です。
このように、欠品許容率は、品や部品の特性によって変更することが重要です。例えば、業務用の車に使う部品などは、欠品すると業務がストップするので許容率を小さく設定する必要があるでしょう。逆に趣味などで乗る車は、部品の即納は比較的、待ってもらえる可能性が高いので許容率は業務用に比べて大きくすることができます。
標準偏差は過去のデータの平均値からバラつきを算出した数値であるため、平均値から外れすぎている場合には、欠品が発生する可能性が高まります。特に、季節ごとに需要が大きく変化する商品などは、適切な標準偏差を算出しにくい傾向です。
そのため、需要が大きく変動する商品に対しては、「安全在庫」という概念があまり通用しないことを覚えておきましょう。安全在庫の計算が機能しないような、需要の変動がある商品は、忙しい時期だけをピックアップして算出するなどの工夫をするのも一つの方法です。
欠品を防ぐためには安全在庫を持つことが重要ですが、それ以上に意識しなくてはいけないのが「在庫管理」です。
在庫がいくつあるのかを正確に管理し続ける仕組みがなければ、「現時点で安全在庫数に対して実際の在庫がいくつあるのか」といったことが把握できません。さらには、想定外の需要に対して欠品の危機をいち早く察知することもできないでしょう。
そこで、おすすめになってくるのが「在庫管理ツール」です。在庫管理ツールは、以下のような機能を持ち合わせています。
【 在庫管理ツールの主な機能 】
安全在庫を維持管理する弊社のおすすめ製品「Netstock IBP」を簡単にご紹介します。
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営業部門や事業部門が過去実績や事業計画から販売見込を作成し、更に需要予測(統計予測)などを加味し出荷見込を作成します。
現状の在庫状況から在庫補充(供給)計画を作成し、生産部門やサプライヤーへの生産、購買依頼の数値を作成します。このような作業を月次や週次のサイクルで作成、見直す業務をサポートします。
Netstock IBPは安全在庫に関連して、以下のような特長があります。
詳しい内容については、Netstock IBPの詳細カタログや製品資料をご確認ください。
その他、デモ・トライアル・導入相談など、お問い合わせも受け付けております
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