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北海道の地方卸売市場の運営に加え、自社での問屋業務にも取り組むある企業では、使用しているシステムの老朽化が課題になっていました。そこで、複数部門における新システム構築の依頼を受けたのが日立ソリューションズ東日本です。ここでは、プロジェクトの計画策定や進行を担った磯部さんと西森さんが、乗り越えた壁や得られた経験、そしてプロジェクト終了後の展開について語ります。

磯部 和之Kazuyuki Isobe
産業ソリューション事業部
北海道ソリューション本部
北海道ソリューション第二部
部長
2001年⼊社

西森 洋輔Yosuke Nishimori
産業ソリューション事業部
北海道ソリューション本部
北海道ソリューション第二部
第一グループ
GL主任技師(課長)
2006年⼊社「キャリア採用」
地方卸売市場を運営する本プロジェクトのお客さまは、水産・青果・畜産のフルカテゴリーを取り扱う卸売業者として、新鮮な食材を取り扱っている。また、食材の荷受けと市場での販売に加え、スーパーマーケットやショッピングモールへの販売や配送などのいわゆる問屋業務まで担う。まさに、食の流通に欠かせない企業だ。今回のご依頼は、問屋業務システムの老朽化に伴う新システムの構築である。
プロジェクト開始時から中核メンバーとして進行を担った磯部は、当時をこう振り返る。
「もともと、問屋業務には日立製の汎用機と呼ばれるメインフレーム(大型の高性能コンピューター)にお客様にてシステムを構築し、利用されていました。2019年のメインフレームのサポート終了を契機に、プログラム資産をマイグレーションにてオープン化して稼働していたものです。しかし、マイグレーション環境で活用していたミドルウェアがサポート終了したこともあり、流通を担う重要なシステムを保守がない状態で運用することはリスキーかつ、そもそも使用言語が現在では主流ではないことから、早急なシステム刷新を希望されていました」
問屋業務システムと一口に言っても、水産物向け、青果物向け、畜産物向け、札幌用、北見用など、取扱品や地域別にそれぞれのシステムが存在している。そのため、大枠は同じ仕様で構築しながらも、細かな部分は各々に合わせて調整していくことが求められた。また、システムを稼働するサーバーも自社で保有していたが、保守切れを起こしているハードウェアがあるなど、やはりこちらも老朽化が課題となっており、クラウドへの移行も同時に求められていた。
磯部とともにプロジェクトの中核を担った西森は、かつてない規模のプロジェクトだったと振り返る。
「どんな順番で、どのように、どれくらいの時間をかけて各システムを構築していくのか。複数システムを構築する上でまずはそこが大きな懸念点となりました。例えば、異なるシステムとはいえ、同じ企業が類似する業務で用いるものであるため、設計者は共通していることが望ましい。とは言え、依頼されているシステム数が多いため、順番に一つずつ進めていくわけにもいきません。納期と社内のリソースを鑑みながら、一部は同時進行となることも許容した開発計画を練っていきました。それに加えて、サーバーの移管も同時におこなっていく。私にとっても磯部さんにとっても、計画策定時がいきなりの山場だったと思いますね」
計画を策定する上で初めに取り組んだのは、現行システムの機能や使用方法の分析だ。「どのような機能を、どんな状況で、何のために使用しているのか」。それを徹底的に調査して理解することで、それぞれのシステムに適した規模感を導き出し、プロジェクト全体の開発スケジュールを策定した。計画が無事に承認されたのち、部署を総動員するほどの大規模プロジェクトが本格始動となった。
プロジェクトの最初の壁として立ちはだかったのは「開発言語」だ。お客さまが現在利用している一部の問屋業務システムは、過去に日立ソリューションズ東日本が依頼を受け、構築したもの。仕様や接続の観点から、今回もそのシステムをベースに、同じ言語で開発をすることとなった。ところが、社内の人事異動やチーム編成の都合で、その言語を十分に理解している人財が不足しているという現実に直面したのだ。
この壁をどのようにして乗り越えていったのか。磯部はこう語る。
「過去に当社で納品したシステムに使用されている言語ですので、『できません』とは言いたくありませんでした。納品までのスケジュールを遵守しながら、メンバーに言語に慣れてもらい、扱えるように育成していく。実務と育成を並行して進めていくことは非常に苦労しました。開発のかたわら、定期的に勉強会や共有会を開催し、全体の底上げを図ることで、徐々に精度やスピード感が高まっていきましたね」
また、設計面でも大きな課題が生まれていた。それは、「単位の違い」への対応だ。例えば水産システムでスーパーマーケットからの受注を受ける場合は「1箱」という単位となるが、農産物だと「1個」、畜産だと「100グラム」など、単位が異なる。また、同じ農産物でも、Aという店では「りんご1箱12個」の計算だが、Bという店では「りんご1箱1キロ」など数え方が異なる場合も。あらゆるパターンに対応するために、お客さまとの綿密なすり合わせをおこなったと西森は振り返る。
「既存システムの分析をもとに、現場の方々とともに『これで網羅できていますか?』と何度も綿密に議論を重ねました。しかし、それでも稼働後には、対応するパターンがなく、伝票が出せないトラブルが発生してしまいました。このトラブル次第では、食品の納品が遅れ、各所への流通が止まってしまう。それだけは絶対に避けなければならないと考え、無理にその場でシステムを調整するのではなく、紙の伝票を手書きで作り対応したこともありました。プロジェクト開始から、不具合なく無事に安定稼働ができるようになるまでの間ずっと、常にチームには緊張と責任が混ざったような空気が漂っていました。」
計画策定から、言語、設計などにおけるさまざまな壁を乗り越え、ついに全てのシステムが納品を迎えた。その時、磯部は何を感じたのだろうか。
「メンバー個々人の飛躍的な成長が、プロジェクトを成功に導けた理由だと思います。言語もみんなで力を合わせながら習得できましたし、入社2~3年目の若手社員も、日を追うごとに頼もしくなっていき、終盤では1人でお客さまを訪問して、要望を的確に伺ってきてくれるなんてこともありました。メンバー全員が主体的にプロジェクトに取り組んでくれたからこそ、プロジェクト完遂まで大きな問題なく走り抜けることができました」
第一グループ総動員でありながら、誰一人妥協することなく追求を続けた本プロジェクト。「人」の底力が、成功に導いたと言えよう。
納品後には、お客さまから嬉しい報告も届いている。これまで各部門のシステムはUI※が異なっていたため、部門内の知見のある方が不在の場合、UIや機能の部分で疑問が生まれた際に迅速に解決できないという課題があった。ところが、現在はUIが統一されため、全社で情報共有ができ、業務の効率化につながっているそうだ。
本プロジェクトを通して西森は改めて、プロジェクトメンバー内の情報共有の重要性を痛感したと話す。
「今回は、複数のシステム開発を一部同時進行で進めていったプロジェクトです。初めの頃は、各システムの開発チームごとに進捗や要望を共有するミーティングをおこなっていましたが、案件が進行するにつれて、全てのシステムのベースは同じであるため、懸念点や工夫できる点が多くの部分で共通することがわかってきたのです。そのため、中盤からは各チームではなく全体での共有会を定例で実施。その結果、プロジェクト全体の効率化や品質の向上につながっていきました」
磯部は、食の流通を担う企業の大規模プロジェクトを経て、地域に貢献できた喜びを感じていると語る。
「本プロジェクトに限らず、私たちの本部では北海道の企業を中心にサービスを提供しています。日々感じているのは、北海道のお客さまは、北海道が大好きで、地元を盛り上げよう、ますます元気にしていこうという想いで事業に取り組んでいらっしゃるということ。今回のお客さまも、そんな企業の一つです。システム開発を通して、北海道の食のインフラづくり、地域の活性化に貢献できたことに大きな喜びを感じています」
最後に、プロジェクトの現在と未来について西森に質問を投げかけた。
「開発した各システムについて、システム保守サービスをご依頼いただき、現在は保守を担っています。また、グループ会社の新システムへの移行の引き合いもいただき、案件は広がり続けています。さらに私たちとしても、これまで関与できていなかった、市場業務向けシステムの刷新や生成AI、RPAを活用した業務改善などを提案し、更なる深耕をめざしていく計画です」
プロジェクトの中核メンバーとして、さまざまな課題を乗り越えながら人財の育成にも取り組んだ磯部と西森。納品直後でありながら、2人の眼は、すでに未来を見据えている。
※UI(ユーザーインターフェース):ソフトウェアのデザインや操作性