需要予測・需給計画ソリューション「Netstock IBP」
SCM(サプライチェーンマネジメント)が日本企業に導入され、ちょっとしたブームになったのは、2000年代初頭のことである。原材料の調達から生産、物流・流通、販売に至るまでのプロセスを統括して管理する考え方だ。現在このSCMが、再び注目を集めている。背景には競争のグローバル化、労働環境の変化、新たなビジネスモデルの上陸などがある。
このSCMに欠かせないのが精度の高い需要予測だ。正確に需要を読むことができれば、適切な発注や生産指示が可能となり、在庫の欠品も過剰も削減することができる。
しかし、この需要予測が困難で、ツールも提供されているが、高額であったり専門知識が必要であったり、全ての品目には適用できないなど、そもそも需要予測に大きな期待があったが、課題もあり、今でも人によるカンと経験に頼っている企業も多い。
バドミントンをはじめとしたスポーツ用品のトップブランドの1つ、ヨネックス株式会社様(以下、ヨネックス様)でも、需要予測は人手に頼り、エクセル他、従来のツールで発注業務を行ってきた。これら属人化から脱却し、業務の標準化と効率化のため、同社が採用したのが日立ソリューションズ東日本の提供する需要予測・需給調整ソリューション『Netstock IBP』である。ノンカスタマイズでシステム化し、1年ほどをかけて、試行錯誤を繰り返しながら運用を開始。システムと人間系による補足を融合させ、需要予測精度の向上、在庫の適正化に挑戦中である。
ヨネックス株式会社 SCM部長 柴崎 雅司 氏
スポーツには、国境を越えて、人と人とをつなぐ力がある。ヨネックス様は新潟で木製品の製造業を前身として創業したが、1957(昭和32)年からスポーツ用品メーカーとしての歩みを始め、国内自社工場による技術と品質でスポーツの発展と振興に貢献。北米、ヨーロッパ、アジアの拠点をはじめ世界各国に販売を広げるグローバル企業へと進化。国境や言葉を超えて、「ヨネックスの国籍は世界」の社是のもとスポーツの感動や素晴らしさを世界にお届けすることに挑戦している。
代表的な製品にバドミントンのラケットがある。バドミントンは1992年のバルセロナオリンピックから正式種目となり、以来ヨネックス様はストリンギングサービス、シャトルコック、コートマット、ポール、ネット等を提供してきた。2020年東京オリンピック・パラリンピックでもバドミントン競技・テニス競技のソール(唯一の)サプライヤーとなっている。バドミントンでは男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗選手など、世界のトップ選手が同社ラケットを使用。テニスでも日本人史上初のグランドスラム大会を制したことで大きな話題となった大坂なおみ他、世界の多くの選手が使用している。
--「ソールサプライヤーとして優れた品質で評価されています。バドミントンでいえば室温が1度違ってもシャトルコックの飛距離が異なります。それだけ羽根が繊細にできているのです。その温度に最適なシャトルコックを提供しています」と、ヨネックス株式会社 SCM部長 柴崎雅司氏は説明する。
ヨネックス様では2004年にSCMの組織が社内に誕生し、SCMシステムを構築した。
--「この2004年のプロジェクト時のリーダーも私が務めていました」と柴崎氏は語る。
2000年当初、国内の大手企業は争ってERPの構築に取り組み、その延長としてSCMがあった。
ヨネックス様でもトップダウンでプロジェクトが走り、パッケージを導入して、システムを構築したが、突きつけられたのは需要予測のハードルの高さだった。トップは組織を作りシステムを導入すれば成果が出るだろうと期待したが、簡単に解決できる問題ではなかった。
--「我々が製造するスポーツ用品のお客様はトッププロもいれば、始めたばかりの初心者もいます。バドミントンやテニス、ゴルフやスノーボード等、スポーツ種目とターゲットによって機能やデザインは多種多様であり、生産に必要なSKUレベルで精度の高い需要予測をシステムが可能にすることなど幻想であることがわかりました。」と柴崎氏は指摘する。
その後、柴崎氏は一旦SCM部門を離れることになるが、再度SCM部長として着任したのは2016年のことである。すでに旧SCMシステムはなく、部員の日々の業務は主にエクセルが主体。いわば手作業であった。--「手作業では、どうしても属人化となり、担当者によって進め方や判断にバラつきがあります。」と、柴崎氏は振り返ります。
ここで柴崎氏の取り組んだのが、需要予測と発注業務、在庫管理業務のシステム化と標準化であった。
ヨネックス様ではバドミントンやテニスなどのラケット、ゴルフクラブ、またストリングス(ラケットのガット)やシャトルコック(バドミントンの羽根)などの主力となる用具は自社工場で生産し、シューズやウェアなどは協力工場に発注している。部署や担当が異なるため、予測・発注業務のプロセスが統一されておらず、属人化していた。
--「ポリシーを統一し、担当者間の業務の透明性を高め、標準化と効率化を図っていく必要性がありました。それにはツールを導入し、業務をそれに合わせて改善することが手っ取り早いと判断しました」(柴崎氏)。
2016年のイベント(設計・製造ソリューション展)で日立ソリューションズ東日本の『SynCAS PSI Visualizer』のデモンストレーションを見て、大きな興味を覚え、併せて『Netstock IBP』の存在を知り、商談に入ることになる。
『Netstock IBP』は需要予測・需給調整ソリューションであり、需要予測・在庫計画の作成と需給計画・生産・購買依頼の業務が可能となる、SCMの中核となるツールだ。
--「まずコスト。10数年前に構築したシステムとは導入費用が一桁違うにも関わらず、期待できる精度はそれ以上でした。加えてエクセルライクな操作性がいい。担当や立場ごとに視点を変えて分析することもできるため、これなら社員からの抵抗もなく、スムーズに定着するだろうと判断しました」と、柴崎氏は『Netstock IBP』の採用理由を語る。
データ階層を担当者が自在に切り替えて、計画調整をシミュレーションできるし、需要予測もエキスパート(自動モデル選択)の他、各種の予測モデルを選択できる。
「他社のツールもいくつか評価したが、『Netstock IBP』でいけると確信しました」(柴崎氏)。
2017年の新年早々からシステム開発を進め、秋口には稼働を開始している。
--「一切カスタマイズをしていません。業務の標準化が目的の1つですから、操作性も出力も変更していません。既存システムとのデータ連携を可能にするだけですから、短期間でシステム化できました」(柴崎氏)。
これにより、担当社員の業務プロセスが透明化され、属人化していたものも解消した。エクセルとのデータ連携にも優れている。エクセルへのアウトプットとインプットを繰り返して、欲しいデータに作り変えていくこともできる。
各種数値をヒートマップ表示して可視化し、縦軸と横軸を切り替えて、各種分析も容易にできる。カテゴリーなどの分類をグロスで見たり、カラーやサイズまで落とし込んで確認したりして、予算との対比、前月との差異、製品や顧客のライフサイクルなどを可視化できる。
--「これにより、業務の効率化もできるようになりました。体感的には2割ほど業務の効率化が出来ているのではないかと思います」と、柴崎氏は笑顔を見せる。
その一方で予測精度の難しさを語る。
--「『適正在庫』は企業の永遠の課題です。欠品は販売機会を損失し、過剰は利益を圧迫します。ここで必須となるのが、精度の高い需要予測です。しかし、システムに高精度な需要予測を求めるのは無理があります」と柴崎氏は断言する。
流行のあるものの需要予測は難しい。特に、スポーツ用品のように短サイクルでモデルの変わる商品の需要予測は、過去実績がないものも多くさらに困難になる。
--「しかし、システムの出した数値に個々の判断ではなくルールを決めた上で人の補正を加えることで、精度を上げることは可能です。人とシステムの融合は必要不可欠なのです。まだまだ試行錯誤を繰り返している段階ですが、適正在庫化に向け着実に進んでいると思います」と柴崎氏は期待する。
生販在調整・在庫可視化ソリューション『SynCAS PSI Visualizer』の浸透も進められている。
--「『SynCAS PSI Visualizer』で在庫を可視化し欠品・過剰の傾向を判断しているのは上長のみで、ツールを活用している社員は限られています。今後は担当レベルまで活用確認できるようにして、『Netstock IBP』との併用でSCMという組織のミッションを達成していきたいと考えています」
社名 |
ヨネックス株式会社 |
---|---|
設立 |
創業1946(昭和21)年4月 |
本社 |
〒113-8543 東京都文京区湯島3-23-13 |
資本金 |
47億660万円 |
従業員数 |
1,795名(2019年3月期 連結) |
事業内容 |
スポーツ用品の製造および販売、ゴルフ場の運営 |
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