サプライチェーンマネジメント(SCM)教育サービス
絶え間なく変化する複雑で不確実なビジネス環境に対応するため、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の重要性がますます高まっている。多くの企業がSCMの習得やエキスパートの育成を目指しているが、これがなかなか難しい。サプライチェーンとは、購買から在庫管理、製造、物流を含む一連の流れを指すが、それらの単純な集大成やマネジメントがSCMではない。SCMは各業務の微妙なバランスの上に成り立つ全体最適を志向するマネジメント手法であり、その実現には高所大所に立った経営的な視点が求められるのである。
ビジネスエンジニアリング株式会社様(以下 B-EN-G)もSCM人材の育成に課題意識を有していた。IT企業である同社がSCM人材育成で重視した点は、ユーザー企業の現場とその課題を理解すること、そして全体最適を図る視点・知見の養成であった。
そこでB-EN-G様が採用したのが、日立ソリューションズ東日本が提供する「SCM教育サービス」であった。一般研修に続き競技会形式研修である世界SCM競技会、通称「GPC(Global Professional Challenge)」へ参加した。チーム演習形式を採用する同研修への参加に際し、B-EN-G様は中堅社員及び新卒入社1~3年目の若手社員でチームを編成。世界決勝エントリー58チーム中16位の好成績を得た。
■ ビジネスエンジニアリング株式会社 プロダクト事業本部 mcframe認定コンサルタント mcframe認定トレーナー 福田 賀一 氏
■ ビジネスエンジニアリング株式会社 プロダクト事業本部 mcframe認定コンサルタント 長谷川 聡美 氏
■ ビジネスエンジニアリング株式会社 プロダクト事業本部 mcframe認定コンサルタント 辻高 真由子 氏
■ ビジネスエンジニアリング株式会社 プロダクト事業本部 mcframe認定コンサルタン卜 清水 梨望 氏
※取材当時 (2023年2月)
福田 氏
B-EN-G様は日本におけるERPのパイオニアである。創業時の母体であるプラント大手の東洋エンジニアリング株式会社がERPビジネスに取り組んだのが1991年、日本初のSAPパートナーとして第一号の導入支援に参加したのは1993年のことである。日本ではSAPの名前さえほとんど知られていない、ERP黎明期のころの話だ。
その開発ノウハウを活かし、1996年にオリジナルの生産管理システム「mcframe」を開発。ERP部隊を独立開業した1999年以降、B-EN-G様は製造業向けERPのリーディングカンパニーとして業界を牽引してきた。
同社の提供するmcframeは、製造業向けSCMソリューションであり、国内トップクラスの導入実績がある。プロセス、組立・加工を問わず幅広い業種に対応し、生産管理・販売管理・原価管理まで幅広く構築でき、グローバルでの実績も豊富である。
--「mcframeはものづくりのお客様のステージを次のレベルに高めることのできる極めて高いポテンシャルを持つパッケージです。幅広い企業に対応する優れた柔軟性と多彩な機能を持っています」と、福田氏は説明する。
辻高 氏
日立ソリューションズ東日本は、SCM教育サービスの柱となるサービスとして、オランダInchainge社と契約し、ビジネスシミュレーションを通じた体験型のSCM教育プログラムである、The Fresh Connection(TFC)トレーニングサービスを提供している。TFCはFortune Global 500の製造業トップ100社の40%、Gartner Supply Chain Top 25の過半数が採用するほどの実績のあるプログラムである。
このTFCを利用したInchainge社主催のGPCが毎年実施されている。世界中の名だたる企業が集い、営業・調達・オペレーション・サプライチェーン担当の4人が1チームとなってSCMの成績を競い合う。
戦いの舞台となるのは、架空の企業「フルーツ飲料メーカーThe Fresh Connection(TFC)社」だ。
同社は業績が低迷しており、これを計4ラウンド(2年間の経営期間に相当)でいかに回復・向上できるかで順位付けされる。その順位を決定する指標はただ1つROI(投資利益率)のみである。
B-EN-G様はmcframeビジネスに関わるメンバーから4名を選抜し、The Fresh Connectionビジネスシミュレーション研修、そしてGPCへ参加させた。福田賀一 氏をリーダーとし、長谷川聡美 氏、辻高真由子 氏、清水梨望 氏ら当時入社1~3年目の若手3名が加えた4名が名が選抜メンバーだ。
--「mcframeはパッケージの機能をお客様の業務に合わせて、必要な機能をセレクトし導入いただきます。私たちの部では、導入を担当されるビジネスパートナー様のご支援を第一に日々業務をしています」と、福田氏は語る。
2022年2月に2日間、日立ソリューションズ東日本の開催する一般研修に参加。同年10月に国内予選があり、7社8チームが挑んだ。
--「改善イメージをつかむことが難しく、最初は試行錯誤の連続でした」と、福田氏は振り返る。
--「例えば多品種少量生産による品質で差別化していくのか、少品種大量生産で低価格を武器とするのか。どういう戦略を持って経営していくのか大変興味深く思いました」と、長谷川氏は目を輝かせる。
--「蓋を開けたらROIが一気に下がっていて、びっくりしたこともあります。ROIの低い理由が、納期が守られない、品質が悪いなどのサービスレベルの低さにあるとわかり、皆で解決策を協議しました」と、辻高氏も説明する。
清水 氏
日本予選での最終的なROIは5位となり、全員が一時は世界決勝への進出を諦めた。しかし、単一ラウンドでのROIの大きな改善幅が評価され、世界大会への進出が認められた。
日本予選では積極的な海外進出施策を打ったことで失敗したことから、世界決勝では商品数を絞るなど、堅実路線を選んだ。それでも次から次へと新しい課題が出てくることから、つい積極策にも挑戦したくなったという。
世界決勝ではRound1では13位、Round2は12位、Round3は10位と、順調に成績を上げている。このままのペースでと思って臨んでいたが、最終のRound4では16位と落ち込んでしまった。
--「市場環境、とりわけ需要の大きなダウンが理由です。いろいろ調整はしたのですが、取り戻すことができませんでした」とRound4の状況を長谷川氏は説明する。
--「他社のラストスパートにも目を見張るものがありました。もし調整がなければもっと順位が下がっていたかもしれません」と、清水氏が補足する。
--「早い段階で需要ダウンのヒントが出ていたのかもしれません。それに気がつくことができませんでした」と福田氏も語る。
とはいえ20位までが入賞で、若手主体のチーム編成かつ、初参加で世界大会決勝での16位は健闘であった。
長谷川 氏
若手社員が中心のチームで、試行錯誤しながらの世界への挑戦だったと当時を振り返ると、全員が明るく笑顔を見せる。GPCへの挑戦の理由を聞いた。
--「GPCは製造現場をシミュレーションできるということで参加を決めました」と福田氏。
--「まだまだお客様の現場を熟知しているわけではありません。SEやコンサルタントという立場を越えて、もう一歩深くお客様の悩みや課題を知り、視野を広げるためのチャンスと思いました」と、進行中のプロジェクトに参加している長谷川氏は語る。
--「トレーニング業務を担当しており、よりわかりやすい講義をするために、お客様の現場を知ることができるGPCに挑戦したいと思いました。」と、辻高氏は挑戦の理由を語る。
--「まだ入社1年目ですが、少しでも早く現場を知りたいと思い参加を決めました」
と、最も若手の清水氏は語る。
若手社員がしっかりとした意思と目的を持ち、GPCに挑戦したのが分かる。4人の挑戦を職場も応援したという。
4人は一連のビジネスシミュレーション研修への取り組みで何を得ることができたのであろうか。
--「組織で業務に対応する以上どうしても縦割りになってしまいます。たった4人のチームでもこれだけ意見が分かれ、意思疎通が大変でした。連携の難しさと重要性を理解することができました」(福田氏)
--「お客様の立場になって考えることができるようになりました。この大会に参加して、全体最適がいかに難しいか、あるいはいかに重要かということを、身をもって体験することができました。とても貴重な体験になりました」(長谷川氏)
--「シミュレーションでリアルを体感できました。トレーニングは、どうしても座学が中心になってしまいます。操作方法のほかに、これからのトレーニングとして現場をシミュレーションした演習を取り入れることにも意欲が湧きました」(辻高氏)
--「お客様の現場を自分ごととして体験できました。この体験をベンチマーク評価の基準とすることで、さまざまな製造現場を評価できるのではないかと思います」(清水氏)
DXが潮流となっている今、あらゆる企業にとってITは必要不可欠な要素になっている。ITエンジニアにも業務知識が求められるようになり、その知識をリアルに学習できたようだ。4人はGPCを含めた一連のビジネスシミュレーション研修について同僚に語り、参加を勧めているという。
--「SCMの学習は早いほど良いと思います。世界標準を身につけて、自社あるいはお客様の業務に必要な解決策を見つけ出し、最適な提案をできるようになれます」(福田氏)
--「特に若手に参加して欲しいですね。座学ではない現場の大変さを実感することができます」(長谷川氏)
--「学ぶことが多いので新人研修として効果的だと思います」(清水氏)
--「SCMはできるだけ早く学ぶべきだと思います。情報処理が必修となった今、SCMも高校生のうちから学ぶべきではないでしょうか。そのためにSCM教育を広める活動をしていきたいです」と、辻高氏は抱負を語った。
B-EN-G様は、若手が積極的に活動できる元気な会社だ。2023年1月にコーポレートブランドのコンセプトとロゴを一新し発表したが、この中心メンバーも若手であった。そんな同社で、「SCM教育サービス」およびGPCでの成果を持ち帰った社員により、新たな動きが始まろうとしている。
社名 |
ビジネスエンジニアリング株式会社 |
---|---|
設立 |
1999年4月1日 |
本社 |
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-8-1 KDDI大手町ビル |
代表取締役社長 |
羽田 雅一 |
資本金 |
6億9,760万円 |
事業内容 |
企業経営および情報通信システムのコンサルティング |