IoT/AIによる工場の見える化コラム
「予防保全(PM:Preventive Maintenance)」は、トラブルが起きないよう予防するために行うという考え方に沿った設備保全です。
基本的にトラブルは起きないのが良いわけですから、予防保全を万全に行うのが理想ですが、全てに隈なく対応するには人員・労力が掛かります。設備保全には、いくつかの種類がありますので、用途・目的に沿って適切な保全を選択し実施することが必要です。
設備保全業務における生成AIの活用例をPDF資料にまとめています。「点検前の計画業務」や「過去事例の検索と振り返り」での活用例を画面イメージも交えながらご紹介しています。
「保全」がつく言葉は様々あり、似た言葉も多いです。まずは、それらが予防保全とどう違うのうかについて解説します。
設備を計画する段階で、「故障しないことが望ましい」こと、また「故障した場合には、速やかに修理できることが望ましい」ことを考慮し、信頼性や保全性の高い設備を設計・製作・設置するという保全アプローチを保全予防といいます。つまり、保全予防とは、設計の段階で保全性を作り込むということであるのに対し、予防保全が設備の運用の過程で予防処置を講じるという点が異なります。
「事後保全」は、トラブルが起こったら対処するという考え方に沿った保全アプローチです。
悪いイメージとして考えられることが多いですが、あえて予防保全しないと決めた設備に対する処置を行うことは問題ありません。
例えば、自宅の蛍光灯は灯りが消えたりや点滅し始めたら交換しているケースも多いと思います。このようなケースに相当する処置は、予防保全に掛かる負担を軽減することができます。一方で、予防すべき重要な設備が故障し対処するようなことは、できれば避けたい事態です。
予防保全は、トラブルが起きないよう予防するために行う保全ですので異なる考え方に基づいた活動です。
「定期保全」は、故障などのトラブルの有無に関わらず、決められた時間間隔で定期的に点検や交換などの設備保全を行います。
予防保全の中に分類される時間基準保全という保全アプローチがありますが、定期保全と同義と考えて差し支えないでしょう。予防保全の種類については、次のセクションで解説します。
製造部門など現場オペレーターによる自主保全活動に対して、「計画保全」は、専門の保全部門が行う保全活動を指しており、故障ゼロや不良ゼロの達成を目指し行われる総合的・組織的活動です。予防保全は、計画保全の中に含まれる一つの保全活動と考えられます。
「予知保全」は、近年期待される理想ともいえる設備保全です。定期的スケジュールでもなく、事後でもなく、トラブルが起きそうなタイミングを予知し先手を打ちます。近年は予兆検知モデルなどAI技術を活用し、設備のトラブルを予知することが研究されています。
予防保全が時間や状態などの基準に基づき計画される保全であるところが異なりますが、設備の故障などを未然に防ぐために行う保全ということで、予防保全の中に分類されると考えることもできます。
「予兆保全」は、故障などがおきる前の予兆をとらえて実施する設備保全を指していますので、予知保全と同じと考えてよいでしょう。
予防保全との違いは前述の「予知保全とは?」の項を参照してください。
予防保全 |
トラブルが起きないよう予防するために行うという考え方に沿った設備保全 |
---|---|
保全予防 |
設備を計画する段階で、「故障しないことが望ましい」こと、また「故障した場合には、速やかに修理できることが |
事後保全 |
トラブルが起こったら対処するという考え方に沿った保全アプローチ |
定期保全 |
故障などのトラブルの有無に関わらず、決められた時間間隔で定期的に点検や交換などの設備保全を行う保全アプローチ |
計画保全 |
製造部門など現場オペレーターによる自主保全活動に対して、「計画保全」は、専門の保全部門が行う保全活動のこと |
予知保全 |
定期的スケジュールでもなく、事後でもなく、トラブルが起きそうなタイミングを予知し先手を打つ保全アプローチ |
予兆保全 |
故障などがおきる前の予兆をとらえて実施する設備保全を指していますので、予知保全と同じ意味 |
設備保全業務における生成AIの活用例をPDF資料にまとめています。「点検前の計画業務」や「過去事例の検索と振り返り」での活用例を画面イメージも交えながらご紹介しています。
予防保全には、保全を行う時期に何らかの基準を設ける「時間基準保全」、「利用基準保全」、「状態基準保全」の3種類に、「予知保全」、「故障発見保全」を加えた5種類のアプローチがあります。
時間を基準にしてメンテナンスを行う予防保全アプローチです。カレンダー基準保全(Calendar-based Maintenance)と呼ばれることもあります。
時間基準保全(TBM)の例
時間基準保全ではメンテナンスを行う時間(メンテナンス間隔)の決め方が重要になります。次のメンテナンスまでの時間が長すぎるとメンテナンス前に、予期しない故障が発生する可能性が高まり、予防保守になりません。逆に、メンテナンスまでの時間が短すぎると故障は発生しなくなりますが、メンテナンス作業コストが増えますし、まだ使える部品を交換するのは無駄になります。
過去の故障データが十分にあれば、ワイブル分布のような故障確率分布からメンテナンス間隔を決めることもできます。もし設備の製造元が指定する使用時間があれば、その時間内にメンテナンスを行うのが適切です。
設備の利用回数や利用量を基準にメンテナンスを行う予防保全アプローチです。
利用基準保全(UBM)の例
利用基準保全では、対象となる設備がどのくらい使われたかを記録する必要があります。利用状況を記録し、定期的に利用状況をモニタリングし、基準となる利用量が近づいてきたらメンテナンスをスケジュールします。実際には、1日当たりの平均利用量をもとに、何日後に基準利用量に達するかを試算し、それまでにメンテナンスが行われるようにスケジュールします。
時間基準保全と同様、過去の故障データが十分にあれば、データをもとに基準となる利用量を決めることができます。設備の製造元の推奨利用回数を基準とすることもできます。
設備の状態を定期的に測定し、状態が悪化した物を修理したり交換したりする予防保全アプローチです。
TBMやUBMは時間や利用回数などを基準にしていますが、実際には利用環境や製造品目の違いにより、同じ稼働時間や、同じ利用回数でも劣化の度合いが変わってきます。そこで設備の状態を測定して修理や交換のタイミングを決めるのがCBM、状態基準保全です。
CBMでは以下の3点の決定が必要になります。
何を測定するかは、対象となる設備によって異なります。設備の状態を適切に示すものを測定する必要があります。また、現実的な測定コスト(時間、費用)で測定できることも重要です。
状態を観測した上で未然に保全を施すという点で、CBMとほぼ同じものですが、一般的にはIoTやAI(人工知能)、ML(機械学習)などの技術を用いた予測などによって行われる高度なCBMを予知保全(PDM)と呼ぶことが多いようです。ケースバイケースではありますが、センサデバイス、IoTを用いてほぼリアルタイムに状態を測定する場合は、CBMでいうところの状態測定間隔がゼロになります。(常に状態を監視し続けます。)
AIやMLを使うためには学習用のデータが必要になります。このため過去の故障の履歴データが十分に蓄積されている必要があります。
表面的には分からないがすでに故障しているものを発見する予防保全アプローチです。
製造業では保安系の装置のメンテナンスで広く使われているアプローチです。予備の製造装置、無停電電源装置、漏電ブレーカ、スプリンクラーなど、普段は動作していないが、必要な時に正常に動作しないと困る装置、設備の保全に使われます。加工中の設備周辺など危険場所への人の立ち入り検知装置なども、普段から動作していますが、正常に動作しているかどうかは分かりにくいものです。
確実に人の立ち入りを検知し警報を発することができるかどうかチェックする必要があります。そのほか、配管、配線など動作を伴わない静的設備のメンテナンスにもFFMは使われます。
設備保全業務における生成AIの活用例をPDF資料にまとめています。「点検前の計画業務」や「過去事例の検索と振り返り」での活用例を画面イメージも交えながらご紹介しています。
トラブルが起きてから対処を行う「事後保全」に対して、予防保全では次のようなメリットがあると考えることができます。
設備が万全な状態でないと製品品質にも不具合を生じさせる可能性があります。予防保全を行うことによって、設備にトラブルが生じる前に対処できますので、製品品質の維持にも寄与できます。
設備が故障した場合や、不調があればその設備は止める必要があります。修理が完了するまで製品の生産は停止したままになりますが、交換部品の取り寄せが必要であったり、設備メーカーのメンテナンスが必要な場合、長期間のダウンとなる可能性もあります。
一定の手間は掛かりますが、予防保全を実施することでダウンタイムを回避し生産性を向上させることができます。
設備の故障時、故障部位以外にも何らかの負荷がかかる可能性もあります。故障と修理を繰り返すことによって、設備の寿命を縮めてしまうかもしれません。予防保全を講じることによって、設備の寿命を延命できる可能性もあります。
予防保全により、予期しない故障の発生を減らすことで、突発故障に伴う予期しない保守部品の払出しも減らすことができます。突発故障に備えて保有しておく予備の保守部品在庫すなわち安全在庫を減らすことで在庫削減を実現できます。
わかりやすい予防保全の例として、時間基準保全と利用基準保全の例をご紹介します。
1年に1回の定期点検と5年に1回のオーバーホールを行う、などが時間基準保全になります。法定点検なども時間基準保全アプローチの例です。
穿孔機で1,000ショットごとにメンテナンスを行う、トラックの走行20,000kmごとにオイルを交換する、などが利用基準保全になります。
設備稼働時間5,000時間ごとに行うメンテナンスも利用基準保全になります。
多くの企業では、設備保全の主体を事後保全アプローチから予防保全アプローチへと変えていますが、計画が立てやすい時間基準(TBM)や利用基準(UBM)の採用から検討されることが多いようですが、リスク回避とコストを高いレベルで両立できる、状態基準保全(CBM)が望ましいと考えられます。しかしCBMでは、「何の値を設備の状態として測定するか」、「状態の値の閾値をどのように決めるか」、「状態を測定するタイミングをどのように決めるか」が重要であり、その基準を決めることは簡単ではありません。
AI(人工知能)やML(機械学習)に期待を寄せられるのは、それらの基準を大量の蓄積データとコンピューターによる学習アルゴリズムで導き出せることにあります。予兆検知のための学習には、学習用のデータとして過去の故障の履歴データが十分に蓄積されている必要があります。
一方で、一般的に重要な設備は故障が発生しないようにTMBやUBMで予防保全されていることが多く、故障のデータが非常に少ない、または無いということも多いことが実用化の障壁にもなっています。近年は、正常ケースをもとに正常な状態を学習させ、そこから逸脱した場合を異常と判断させる。判断に誤りがあれば、それをAIにフィードバックし、追加で学習を行うという、運用とともにAIを成長させるアプローチをとる場合もあります。まだ実用ケースは少ないですが、センサーやIoTの利便性向上によってデータ収集が進み、学習手法の改善が進むことで、保全も変わってくるかもしれません。
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