ページの本文へ

Hitachi

日立ソリューションズ東日本

ニュースリリース2021年

令和3年11月16日
国立大学法人 福井大学
独立行政法人国立高等専門学校機構 福井工業高等専門学校
株式会社日立ソリューションズ東日本

ICTを活用した個別教育支援システム「ぴこっと」の実証試験を開始

本研究のポイント

◆2021年11月1日から福井県内小学校及び特別支援学校において「ICTを用いた個別教育支援システム「ぴこっと」の実証試験を開始しました。
◆本システムは、自閉スペクトラム症、AD/HDなどの発達障がい児やこころや体の問題を抱える不登校の児童・生徒の個別支援に繋げるもの
 です。
◆本人と、児童・生徒を支援する学校の教員・保護者・支援機関が普段の行動や所感をシステム上に入力し、ビッグデータ化します。
 本人に適した支援計画の立案やAI機能により学習教材や支援サービスの提案がされます。
◆本システムで就学時から就業までの児童・生徒の学習・行動記録等をポートフォリオのように残すことで、教員や支援者など環境が代わっても
 スムーズな情報共有が可能になり、継続的に支援に結びつけることができます。障がいの有無に関わらず、誰一人取り残さないライフプラン
 全般をサポートするシステムです。

 2021年11月1日より福井県内の福井市立明新小学校、勝山市立成器南小学校、福井東特別支援学校において福井大学と福井工業高等専門学校、日立ソリューションズ東日本はICTを用いた個別教育支援システム「ぴこっと」の実証試験を開始しました。
 発達障がい児の個性や特性に合わせた教育や学習の提供は、教員や保護者が児童に寄り添いながら、生活の困難さ、感情の起伏、成長など小さな気づきの積み重ねにより、学習の設定や個別支援計画が行われています。
 本システムは、本人、児童・生徒に関わる全ての保護者、教員、専門家が児童の生活、学習、医療それぞれの立場から、“気づき”をシステム上で記録し、ビッグデータ化することで、就業までの支援計画づくりをサポートするものです。
 システムでは、心理・教育・福祉・工学の専門家により「国際生活機能分類:ICF」に基づき分類された、児童でもわかりやすい行動目標「友達と一緒に楽しく遊べたか」など約1500のチェック項目が用意されており、その中から児童や支援者が5~10の項目を選び、日々の行動記録が行われます。その記録が時系列に沿ってグラフ化されることで、児童の成長のポイントや褒めるタイミングなどが可視化され、支援者の見逃しを防ぎやすく、必要な学習教材などが提案されます。また、支援者や環境が変わってもその記録をデータベースで引き継ぐことで、継続的な支援へと繋げることができます。
 AIがデータベースをもとに(個人情報を特定せずに)外部の支援機関が提供するサービスをマッチングする仕組みを提供します。(特願2018-222467)
 現在、福井県教職員組合において、小学校、特別支援学校の参加募集及び相談を受け付けています。
 本システムは発達障がい児だけではなく、高齢者支援など幅広い領域での活用を見込むことができ、社会全体で支援するためのプラットフォームになることが期待されています。

研究の背景

 2016年4月1日より「障害者差別解消法」が施行され、特別支援の必要な児童に対し環境整備などを行う「合理的配慮」が必要不可欠となっています。「合理的配慮」を有効活用するためには、個人の状態像、特性の把握と支援方法のマッチングが成り立たなければなりません。
 これまでは、支援があっても、特別支援が必要な児童のニーズと支援する側のマッチングに時間がかかるケースが多くありました。また、支援の前には、観察が必要とされ、100人100様の個々に多様な障がいについて、「どのような配慮や支援が必要なのか」一人ひとりを把握するためには、支援を行う前に学校と家庭、支援機関で情報の共有、具体的に状態像を把握すること、「協働」を行うための環境が必要です。
 さらに、教員、保護者の多忙さも課題となっており、業務の負担を行う仕組みが必要となっております。特に個別の教育支援計画等の作成に費やす時間等資料作成の時間が多忙さを極めている現状があり、教育の質を上げかつ根本的な業務改善を行うことが望まれております。

研究及びシステム内容

 本システムでは、心理、教育、福祉、認知科学の専門家により「国際生活機能分類:ICF」に基づき分類した、児童でもわかりやすい行動目標「友達と一緒に楽しく遊べた」など約1500の項目を用意しました。教員・保護者・本人がシステム上で適した項目を5~10項目選択し、複数の改善/成長して欲しい項目等にチェックを毎日、5段階評価で入力します。また、日々の行動や教育内容等の結果について、評価ポイントや定性的コメントを互いに登録し、統合データベースで一元管理します。
このデータベース上で情報を共有することで、保護者が学校の様子を確認したり、教員が家庭での様子を確認したりできる、関係者間で個人特性に応じた教育支援のための情報共有やコミュニケーションが可能になります。これにより、教員や保護者が必要な支援を客観的に把握し、本人のやるべきことを見える化(構造化)することができます。システムを通じ、児童の行動を記録する中で、困りごとの確認による支援計画立案の継続的ブラッシュアップも実現します。
また、日々の記録がグラフ化されることで、振り返りと動機付けが視覚化され、失敗しても何度でもトライすることができ、支援者は本人の成長を褒める機会を増やすことができます。児童本人の成長を関係者間で共有することで、継続的な支援が可能になります。また、統合データベースに集約された行動記録に基づいて、医療機関と協同して、脳波データや認知特性等もデータベース化することでビッグデータとして支援プランを検討、実践することを目指しています。
本システムは、日立ソリューションズ東日本がAWS(※1)環境に必要な開発や技術提供を実施しました。また、厳重なセキュリティとシステムの運用・管理を行います。

実証試験の内容及び成果

 福井大学と福井工業高等専門学校では、2016年に総務省SCOPEの委託事業の下、福井県内の特別支援学校など13校の参加を得て、「ICTを活用した個別教育支援システム「ぴこっと」」の試験運用を2016年10月1日から2019年3月31日まで行いました。
 本システムの使用者にアンケート(実証試験の協力者25名によるアンケート回答)をしたところ、76%の教員、保護者がシステムを通して、子どもの様子や行動を具体的に見られるようになったと回答があったほか、AI機能により推奨された外部支援サービスの提案があり、72%から有効との回答がありました。
 本システムにより、日々の行動記録の蓄積、可視化による状態像の把握により個別教育支援計画の作成支援と、有効活用を実現できました。個人特性に応じてAIによる提案機能「ナッジ・選択アーキテクチャ(※2)」の提供により教育サービス(民・官によるもの)とマッチングを行い、API(※3)を用いて連携も可能です。例えば、2016年の総務省事業で行った「ICTを活用した発達障がい児向けの教材(※参照1)」等、本人の行動記録の特性に応じたものが提案されます。
 またコロナ禍における日々の健康観察チェックによる即時的な保健指導や外国人児童生徒の保護者とのやり取りを密に行える情報インフラ、障がいのある児童生徒の就労支援にもつなげることも有効であることがわかりました。
 今回の実証試験では、健康観察チェックや電子連絡帳システム、各学校における個別教育支援計画のフォーマットへの自動作成等、教員や保護者の負担・多忙さを軽減しながら、密に即時的に効果的な教育的支援を行える仕組みの構築等、持続可能性のあるシステムとするため、現場からニーズの抽出を行い、安心・安全なセキュリティ管理のもと、さらなるバージョンアップを計画しています。

今後の展開

 福井大学、福井工業高等専門学校、日立ソリューションズ東日本の三者は、今回、新たに福井県内の小学校等を対象に実証を行い、その結果を本システムの本格運用に向け再構築します。
 個の特性にあった民・官の多様な教育的サービス提供を行うための課題の洗出しや、学校と家庭の連携を密にしながら、教員と保護者の負担を減らすための業務改善・効率化について、また福井県以外への展開を視野に入れたニーズを検証します。障がい者のライフプラン全般をサポートする為に必要な業務機能追加案の検討も行います。
 本システムは発達障がい児だけではなく、高齢者支援など幅広い領域での活用を見込むことができ、社会全体で支援するためのプラットフォームになることが期待されています。

《 本研究は下記の協力学校により行われました 》
総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) 地域ICT振興型研究開発
平成28年度~平成30年度 福井県内13校
※今回の実証試験は福井県教職員組合で募集中。現在、福井市明新小学校、勝山市立成器南小学校、福井東特別支援学校の3校で稼働

用語説明

【 ※1 AWS(Amazon Web Services) 】
Amazon.comにより提供されているクラウドコンピューティングサービス

【 ※2 ナッジ・選択アーキテクチャ 】
人が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする仕組み。
人が選択し、意思決定する際の環境をデザインし、それにより行動をもデザインするもの。
ナッジ(nudge:そっと後押しする)とは、行動科学の知見(行動インサイト)の活用により、選択の自由を残し、費用対効果の高いことを特徴として、欧米をはじめ世界の200を超える組織が、あらゆる政策領域(SDGs & Beyond)等も行動インサイトを活用されている。
ナッジ理論は、2017年に理論の提唱者である行動経済学者リチャード・セイラー教授がノーベル経済賞を受賞したことで、アメリカの企業を中心に世界的に広まった。現在では、多くの企業のマーケティング戦略で利用されるほか、イギリスやアメリカの公共政策でも使われている。
www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/nudge_is.pdf - ナッジとは_消費者委員会資料抜粋_r200501 (env.go.jp)を参照しました。

【 ※3 API:アプリケーションプログラミングインタフェース(API、英:Application Programming Interface) 】
ソフトウェア同士が互いに情報をやりとりするのに使用するインタフェースの仕様。

個別教育支援システム「ぴこっと」のシステムイメージ
図1 個別教育支援システム「ぴこっと」のシステムイメージ

 システムは、一人ひとりの児童生徒に対して関わる保護者、担任、支援者がそれぞれの立場から、特性や目標に応じたチェック項目を設定し、そのチェック項目を日々チェックしコメント文を記述します。
 学校においては、学校内でのチェック項目約5項目程度を担任が毎日チェックし、コメントを書きます。家庭内では家庭内でのチェック項目を個人ごとに決めた5項目ほどを保護者がチェックし、コメント文を記述します。また専門機関の支援者がいる場合は支援者も書き込みます。これらの行動チェックやコメント文の情報共有は即時的に行い、データベースに蓄積されていきます。
 このデータを解析し、AIで支援プランの導出を行いますが専門家の意見も加えた事例検討会等も開催し、必要がある場合は、支援機器や支援教材の開発を行います。ここでの教材、支援サービスは、教科のみならず衣食住、ソーシャルスキル等、すべてを教育と捉えています。それらのフィードバックを受けて、また新たに支援機器などの介入をいれながら、日々の生活をおくり、日々の履歴を蓄積、支援を行うというこの好循環をくりかえしていきます。

システムイメージその2

システムイメージその3

システムイメージその4

システムイメージその5

《 システムの特長 》
(1) 1,500に及ぶ行動チェック項目を保護者/教員/支援者間で確定させます。チェック項目は、WHOで採択されている「国際生活機能分類:ICF」コードに紐付けすることで、本人の個人特性を把握し、その特性に合った支援をAIによりマッチングします。
また、個人情報を特定せずに外部の支援機関が提供するサービスとマッチングする仕組みを提供できます。
(特願2018-222467:疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム及び行動支援方法)
(2) 関係者間で複眼的に情報の共有ができます。中長期的な目標を構造的にスモールステップに分けて達成できるよう促すことができます。
(3) グラフの時系列分析等により個人の特徴を可視化し、やるべきことの見える化を支援します。
(4) 任意のコメントも登録でき、困っていることの共通認識や適切な支援計画を支援します。

参考URL

※1 提案される教育サービスの一例として(発達障害児者支援のプログラミングWEB教材:本システムとAPIで連動可能な教材)https://www.soumu.go.jp/programming/ufukui.html

《 本研究は下記事業によって行われました 》
平成28~30年度 総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) 地域ICT振興型研究開発
研究課題:発達障害児者の個人特性に応じた個別教育支援システムの開発研究
研究代表者:小越 咲子 福井工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授
研究期間:2016年6月3日~2019年3月31日

平成29年度 総務省 プログラミング教育普及推進事業~障害のある児童生徒を対象としたプログラミング教育実証事業~
研究課題:発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成
研究代表者:小越 康宏 福井大学 学術研究院工学系部門 准教授
研究期間:2017年9月21日~2018年3月23日

日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 18K02896
区分:教育工学関連
研究課題:発達障害者の就労支援のための社会性スキル獲得とプログラミング能力の育成
研究代表者:小越 康宏 福井大学 学術研究院工学系部門 准教授
研究期間:2018年4月1日~2022年3月31日(期間延長)

日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 19K12245
区分:ウェブ情報学およびサービス情報学関連
研究課題:発達障害者のための個人特性に応じた温かい家庭室内環境の開発研究
研究代表者:小越 咲子 福井工業高等専門学校電子情報工学科准教授
研究期間:2019年4月1日~2022年3月31日

データダウンロード

お問い合わせ先

【 研究に関すること 】
国立大学法人福井大学
担当:小越 康宏准教授
〒910-8507 福井県福井市文京3-9-1
お問い合わせ先Email:y-ogoshi@u-fukui.ac.jp

国立高等専門学校機構 福井工業高等専門学校
担当:小越 咲子准教授
〒916-8507 福井県鯖江市下司町
お問い合わせ先Email:ogoshi@fukui-nct.ac.jp

【 システムの導入等に関すること 】
株式会社 日立ソリューションズ東日本
担当:伊藤 洋一
〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町2-16-10
お問い合わせ先Email:hse-info@hitachi-solutions.com

【 報道担当 】
林 美果(はやし みか)
国立大学法人 福井大学 広報センター
〒910-8507 福井市文京3丁目9番1号
TEL:0776-27-9733
E-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp

担当:小野 さおり
株式会社 日立ソリューションズ東日本
〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町2-16-10
お問い合わせ先Email:hse-info@hitachi-solutions.com

TOP