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日立ソリューションズ東日本

東日本の光輝く企業:佐藤繊維株式会社

佐藤繊維社製の糸

世界中の人が注目したアメリカ合衆国オバマ大統領の就任式。
オバマ大統領だけでなく、ミッシェル・オバマ大統領夫人のファッションも世界中の注目を浴び、日本のTV番組やファッション誌でも特集が組まれるほどの人気でした。
そんな夫人のファッションの中でも特に話題を呼んだのが就任式当日に着用していたニナリッチ社のモヘア素材のカーディガン。そのモヘアの糸をつくった企業が山形県寒河江市に拠点を置く佐藤繊維社です。

斬新なアイディアと品質の良い素材は、シャネルやニナリッチ他、世界ブランドに糸を提供する等、世界中に注目されています。
糸(梳毛糸・特殊糸)の素材研究開発から、ニット製品の企画・デザイン・製造までの一貫工場だからこそ出来る「オンリーワンのモノづくり」。
そんな、佐藤繊維社の「モノづくり」の現場をお訪ねし、お話しを伺いました。

Q.御社は「糸づくり」の他にも色々な事業を展開されていますが、御社の特長を教えて下さい。

佐藤繊維社佐藤氏
インタビューに対応いただいた
同社代表取締役社長 佐藤 正樹氏

当社は、昭和7年に県内で産出する羊毛を原料として紡績業を始めました。
昭和39年には、ニット製品部門を設立し、山形県内でも珍しい素材から製品までの一貫生産を行うメーカーとなりました。

繊維産業はもともと輸出のための産業として発達してきましたが、昭和50年代は海外よりも国内需要が多かったことから周辺の産地は好況でした。
それが、中国製品が国内に入って来るようになると、価格競争が激しくなり廃業する企業が続出、周辺の産地は壊滅状態になってしまったんです。

どちらかというと今までの日本の製造業、特に私どものような繊維業は、素材を使ってくれるお客さんの依頼のもと、何かを作るケースというのが多かったんじゃないかと思うんですね。
当社も以前は、依頼されたものをつくるというモノづくりをしていました。
私自身、この会社の四代目として山形の「糸づくり」の家に生まれて、糸作りとセーターを作っていましたが、素材から製品まで一貫して生産できるメーカーであるという強みを活かし、単に価格競争をするのではなく、自分達でブランドをつくってモノを売る、「自社ブランドをつくる」ということに力を注いでいます。

Q.自分達でブランドをつくってモノを売るというのは大変なことだと思うのですが、一番苦労したことは何ですか?

モノを開発することにおいて凄く大変なのは、言われたものを当たり前のように作っていた企業が、自分で考えてモノづくりを始めるという「意識の改革」「志気の持ち方」です。
確かに、モノをつくる技術力もあるし、考える力もある。それをアイディアにして商品を開発するという気持ちのつくり方というものに、実は凄く苦労ました。そして、そこを改革したことによって、社員全員の意識が変わりました。
自分のところじゃないとつくれないモノづくり、私達しかつくれない、「何処にも誰にも負けないモノづくり」をするという部分は、製造業として大事な部分でもありますよね。
東北は製造業が多い土地でもあるんですよね。うちの会社は最初にモノづくりの姿勢から変えていきました。

もうひとつは、いいものであれば売れるというものじゃないということ。
どんなにいいモノであっても、それをどうやってお客様に見せていくか演出していくか知らせるプロモーションやブランディングの重要性です。そこに、気がついて、プロモーションについても自分なりに失敗しながら進化させてきました。
だから、今、自分達のブランドをつくって売るということをやれているんです。

こだわりの糸からつくったニットの洋服。

人気商品は、すぐに完売してしまう程の人気。
良質な素材に加え、佐藤繊維オリジナルのデザインであるニット製品は、個性を重視するお客様が多く、リピーターも多いという。

佐藤繊維社のニットの写真

Q.今のファッション業界は、コストをかけずに大量に売るという構図のような気がします。そんな中で、いいモノをつくろうとする企業は少ないのではないでしょうか?

日本を支える製造業が地方で凄くコスト競争をさせられているんです。
今は、欲しい時に欲しいものを買う・仕入れる、ようは余計な在庫を持たないスタンスでキャッシュフローを良くするという経営をしている所が多いんじゃないかと思います。経営としては理想なんですが。
そうすると、製造業は年間を通して仕事がないという状況になってしまいます。特に私どもの「ニット」というのは皆が欲しい時期が集中するため、半年ぐらい仕事がなくなってしまうこともあるんです。
その結果、日本からニットの、繊維の製造業がなくなってしまう。ようするに、皆が市場主義、消費者主義という流れの中で、自分達の利益優先という世の中の構図になっていると思います。
昔はモノが無く、特に経済成長の頃は、一番最初にモノをつくるところが儲かりました。その次、それを生産して保護して、次に販売して。という順に時代とともに流れが変わっていくんです。そんな風に世の中の流れが変わっていく時に、結局最後はどうなるかというと、「モノの価値ってなんなの」っていうところに行きつくんです。

実は日本の糸や生地を造る技術は凄いものがあるんですよ。
例えば、オーストラリアのタスマニア島でとれた良質な、とても普通では考えられないような原料を使って、それを日本の紡績技術を持つ企業が糸をつくって、それを超一流のブランドの生地をつくっている織屋さんが織る。
そして、有名なヨーロッパのブランドでパタンナーをやっていたような、凄く腕のいい日本の職人さんがパターンをつくって、そして日本の工場で縫製して、プロが見たら全員が、「このスーツ凄いね!」っていうものがあったとします。それをお店で売っても、売れないんですよね。原料や紡績がどうかなんて、お店の店員さん達に知識がないとお勧めもできないんです。
昔はそういうものもあったんですけど、売れないから今は皆なくなってしまったんです。
ただ、この情報を知った時に、殆どの人が「そういうスーツって、どこで売ってるんですか」って思いますよね。原料が何とか、そういう情報って私達は殆ど分からないですよね。今まで市場では流されなかったからなんです。
でも、最近、消費者の方って、「本当にいいものって何処で買えるの」とか、そういう情報を知りたがってるんですよね。
これからの時代、そういうトレーサビリティやこだわりが、ブランドになってくる時代なのかなぁと私自身は思っています。

良質な素材からつくった「こだわりの糸」

糸とは思えない程、様々な色と種類の糸は、同社にしかつくれない糸も多いという。

佐藤繊維社のニットの写真

Q.「モノを売る」という点では如何ですか?

私どものブランドも、当初、日本で色々なお客様に売ることを考えたのですが、なかなかうまく行きませんでした。
アメリカのメジャーな展示会へ出展したのが先で、そして逆に日本に戻って通販番組に出しました。最初はそうでもなかったんですが、私自身が出演して、素材のこだわりとか糸の良さとか、Made in Japanなんですよって話しをしていました。うちの商品は、個性的な商品が多いせいもあって、一度買ってくれたお客様がリピーターになってくれて、少しずつ売れるようになっていきました。

そんなある日、オバマ大統領夫人が私どもの糸を用いたニットを着たのがTVで映ったんです。そしてTV局が取材に来て、ニュース番組に出演しました。私自身が番組にでて、日本で世界のトップブランドのシャネルやニナリッチが使っている糸であること、オバマ大統領夫人が着たニットにも私の糸が使われていたことを話した内容を、「日本にこんな企業があるんですよ」と番組で紹介して頂きました。
そうしたら、私どもの商品を買ってくれたお客様が番組を見て、「知ってる。ここの服を持ってる。何年も前から私は知ってた」という反響になったんです。
女性心理として、みんなが着る前から「私は知っていた」って嬉しいですよね。お客様からのメールが殺到しました。
その後の通販番組の時、いつも最後には売り切れてはいましたが、その回は番組が始まった途端に、売り切れてしまいました。
実は通販番組は、番組が始まる前にインターネットでも買えるんです。TV放映前にお客様がネット通販で買ってしまい、商品がなくなってしまい、TV放映前のネットでの販売はストップする程に人気がでました。でも今度はネットで買えなくなったため、TV放映が始まった瞬間に注文が殺到して、あっという間に売り切れてしまいました。

オバマ大統領夫人がニットのカーディガンを着た写真(同社ホームページより)

この情報を聞いた時の佐藤社長はじめ社員の皆さんは、言葉では言い表せないぐらい感動したそう。
南アフリカで仕入れた原料が、日本の山形でモヘアの糸になり、その糸をヨーロッパのブランドがニット製品に、そしてそれをアメリカの大統領夫人が着る。
1枚のニットに、世界中の人達の一流の技術と熱い思いが込められている。

佐藤繊維社のニットの写真

Q.「モノづくり」において一番大事だと考えていることは何ですか?

もっとたくさんつくってほしいという依頼がありますが、私どもとしては、これ以上はつくらない。
モノをつくる職人さんがいて、モノをつくる環境もあります。でも、今年たくさん仕事があるよりも、毎年安定して生産できることが社員にとって大事なことだと考えているんです。仮にたくさん入ったとして、それはいいことなのですが、お客様の需要に対して供給量と利益をだすってことは、いずれ信頼がなくなってくるとも思うんですよね。
モノづくりとかブランドとか販売には凄く大事なストーリーがあって、環境がある。その環境を守ってかなきゃいけない。ブランドを大事にする、会社を大事にする、社員を大事にするということを大事に考えて行きたいです。

佐藤繊維社のニットを織る工程

同社では、40年以上前から使っている機械でニットを編んでいる。佐藤繊維オリジナルのニットを編むには、現代的な機械よりも、デザインに合わせて部品を交換したり、メンテナンスがしやすい昔の機械の方が適しているとのこと。

Q.東北でビジネスをするということについては、どうお考えですか?

私も以前は東京で仕事をしていて、山形に帰って来る時には「デザインは東京じゃないとできないよ」って言われましたね。山形に帰ったら東京に比べて情報も少ないし、トレンドを知る手段も少ない。東京にいると全てのブランドが見ることができるし、なんでも情報がある、売れてるものが何かを身近で一瞬にして見ることが出来ますよね。
お洒落なものをつくるならお洒落な生活をしないとできないと言われましたし、自分でも思っていました。
でも、今、山形で私どもは、トレンドを追いかけるモノづくりじゃなくて、自分達がつくりたい、自分達の世界観、自分達の設備であるとか自分達の環境をつくっているんですよね。
これをつくらせたら世界一、誰にも負けないものを自分達のデザインとしてつくっています。
全然トレンドじゃないですし、トレンドである必要はないんです。なぜならトレンドは他の企業がつくってくれるから。私どもがつくるのは、私達だからつくれるモノづくりなんです。
完全にマーケットインじゃなくてプロダクトアウトのモノづくりをしています。
凄く手間がかかって個性があって、100人いたら1人しか好みじゃないって言われるような商品です。
それがトレンドでなければ数を売ることができない。手間がかかる割に数が売れなくて費用対効果がないから参入してくる企業は限られています。
だけど、消費者は自分の好みの洋服がありますよね。トレンドが大きくなればなるほど隙間はたくさんできるし、消費者の心って満足されなくなります。これから大事なのは、トレンドじゃなくって隙間をちゃんと捉えることができるかだと思います。だから、単なるお金儲けじゃなくて、その世界観が好きでモノづくりが好きとか、そういうものに加わっていかなくてはいけないと我々は思っているんです。

細かいデザインの入ったニット製品。

この後、ある加工を施すと、細かい編みの部分が、レースのように透け感のあるものに変わるそう。この加工方法も同社独自の技術。

佐藤繊維社のニットを織る工程

Q.山形の企業の方々は、地元に対する思いが凄く強くて、地域貢献や地域の活性化ということに積極的に取り組んでいますよね?地方の地域活性化については、どうお考えですか?

私どもは地方でモノづくりをやっています。事務所は東京にも大阪にもありますが、デザインも技術開発もモノを考えるスタッフは全員山形にいるんです。
今、地方がどういう状況かと言うと、モノを考える人が地方からいなくなって、ドンドン過疎化しています。
残っている企業の多くは地方に工場を持っている大手の製造業ですよね。地方にとっては工場ができることで、労働が生まれて雇用が生まれます。ただ、本当の意味で地方が活性化するかというと、少し違うんじゃないかなと私自身は考えています。
本当の意味での活性化っていうのは、そこに文化が生まれたり、新しいものを発信できるということだと思うんです。大事なのは場所が東京にあるか都会にあるかということではなく、地方であっても全然問題はない。逆に地方だからこそのメリットもあります。

去年、1つ寮をつくりましたが、東京や大阪、北は北海道から南は鹿児島など、山形県外から来ている社員が多くて、寮が足りなくなってしまい、今は寮が3つあります。
みんな洋服が好きですし、変わってる服だけどこういう服が好きだという社員もいます。ゼロから自分達でつくりたいという社員もいて、そういう人たちが山形に集まったんです。
そんな風に色々なところから人が集まって、ここ、山形から新しいものを発信しています。

何もないところですが、若い社員が集まると、たまには飲んだり、鍋パーティをしたり、集まって仕事の話をすることもありますし、そうすると新しい文化が生まれる。新しい文化が生まれると、今度は近くのスーパーに活気がでてきたり、若い社員に好まれる飲み屋さんができてきます。本当は、そうやって地方の街ってつくっていかなきゃいけないんじゃないかって思うんです。
「山形に戻って何かしたいんだ」と思わせるような環境を地方自身がつくっていかないと、絶対に活性化しないですよね。

糸を紡ぐ機械。

世界中から集められた素材は、この機械で、繊維を引き出し、縒(よ)りをかけて糸がつくられていく。
同社にある糸を紡ぐ機械も40年以上前から使用されていているものが多く、世界で一番細いモヘアの糸の完成を実現したのも昔から使っている機械とのこと。

佐藤繊維社の糸を紡ぐ機械

Q.日本は、中小企業や地方の企業のモノづくり・技術力が支えてるのではと思うのですが、どうでしょうか?

凄く技術力があって、世界のトップクラスの生地をつくっているのは間違いなく日本なんですよね。
そういうことをもっとプロモーションしてPRして、そうした時に安い海外の製品と戦って勝てるかって言ったら、勝てる可能性は凄くあるから、ブランドにしていくことが必要だと思うんです。

例えば鉄鋼、鋳物、電機、木工、東北には色々な企業がありますが、大手のブランドの商品だけをつくるのではなく、山形が又はそこの地方の技術が世界ナンバーワンであって、自分達だからつくれるブランドだということを、これからは発信していかないといけないと思います。それを誰に訴えるかというと、今までは、たくさん発注してくれるメーカーさんにでしたが、これからはそれを消費者に訴えることも必要だと思います。

最終的に消費者が支持してくれて、それがすごく売れているとなったら、メーカーさんも小売店さんもそのブランドを扱ってくれますよね。消費者がほしいと言えば買ってくれる、それは、昔の流通と今の流通とで一番大きく違うところですね。今、山形で成功している企業というのは、全て消費者にダイレクトに訴えてる企業なんじゃないかと思います。

間違いなく言えることは、日本の技術は世界と比べても素晴らしい技術力なのですが、残念なことに全部コピーされて負けてますよね。
大きく時代が変わった中で、今まであった企業が突然なくなる原因は色々あると思いますが、最終消費者に訴えてなかったというのも大きな原因の一つだと思います。
私は、中間商品でもブランド力をつけるということが凄く大事だと考えているんです。

オバマ大統領夫人が来ていたカーディガンに使用されたモヘアと同じ糸。

南アフリカ原産の希少なモヘアを原料としている。世界で一番細いモヘアの糸の細さは、原料1kgで長さ52m(通常は23m程)。手触りは、普段手にしているモヘアより、柔らかくて軽いが、肌にのせると驚く程暖かく、肌に優しい羽のようなモヘア。

佐藤繊維社のモヘアの糸

Q.「どう売っていくか」という点では、先ほど、通販番組のお話しがでましたが、他に何かありますか?

今、百貨店でモノが売れない時代と言われてますよね。
でも、私どもは、今は、百貨店での販売に力を入れてます。自社ブランドの一つ、「M&KYOKO」も全て百貨店で展開をするようにしています。実は、百貨店で今唯一数字を落としてないのは、プレタゾーンなんです。
プレタゾーンは、百貨店でしか買えないから、売り上げが落ちてないんです。だから、私どものブランドもあえて百貨店で展開しています。何故かというと、百貨店は一番立地のいいところにあるし、接客に関しては日本の小売店の中で一番丁寧な接客をする体制を持っているからです。

今年も9月から新しく「佐藤繊維」というブランドを伊勢丹に出しました。これは、伊勢丹三越グループとの共同プロジェクトです。商品に個性も入れながら、もう少し一般のキャリアやミセスの人が着ることができ、値段もグッと抑え買いやすくというコンセプトのブランドです。伊勢丹三越グループの百貨店でないと買えないというストーリーにしました。
佐藤繊維の糸は、私自身が海外へ行って、良質な原料を探してきています。ペルーやブラジルなどの南米の方に凄く変わった原料を探しに行ったりもします。年間少量しか取れない希少なアルパカ等を、糸にしたものもあります。

モノを売るには、デザインも凄く大切だし、営業としてのプロモーション、カタログや百貨店側のプロモーションも大切です。あとは、原料、モノづくり、それらにこだわりを持つことが大事です。
ただ、「モノを売る」ということを考えた時、モノの力は凄く大事だと思われますが、実は売るにあたって「モノの力」って3割ぐらいしかないんですよ。あと大事なのは、どうやって売るかっていうプロモーション、ブランディング。でも、実は、そこも3割ぐらいしかないんです。
「一番大きいのは何なの?」「残り4割は何なの?」というと、あとは、販売スタッフがどれほど知識があって、その思いや情熱をお客様に伝えられるかで決まるんです。
だから、今回、伊勢丹三越グループで販売するにあたっては、売場の責任者の方々を対象に講習会を開いて、そこで糸の原料や糸づくりの話しをして、私どものモノづくりの思いを伝えました。

糸の原料となる羊毛。

原料は、佐藤社長自ら南アフリカ、南米やオーストラリア等に行き、良質な原料を探してくるという。

佐藤繊維社の羊毛

Q.御社にしかつくれない「糸」で、新しいビジネスを立ち上げたそうですが、それはどんなビジネスですか?

新しく「アクセサリーヤーン MASAKI」という糸を出したんです。
私どもがつくっている糸は中間商品なんです。中間商品は、エンジンの部品と一緒で最終商品に中々ならない。
生地をつくるため、ニットをつくるための原料で、8千年前からずっと脇役なんです。
ひとつだけ、手芸糸っていうのがありますが、手芸糸は、編み物をするための材料でしかないんです。

1年半前のヨーロッパでの展示会に、自分なりに凄くこだわった面白い糸を発表した時に、ヨーロッパの手芸糸の大きいエージェントが来てくれました。そのあとのニューヨークでの展示会にも、ニューヨークで一番大きい手芸糸の大きいエージェントが来ましたが、結局、どちらも具体的なビジネスには繋がらなかったんです。
その理由は2つとも一緒で、糸としては面白いけど、編み物には向かないという理由なんです。やっぱり凄く楽しい、面白い糸って、見る分には楽しいんですけど、編み物には向かないんですよね。
でも、実は糸自体が面白かったり、可愛い糸があったら糸自体が飾り物になるんですよ。
糸は脇役だと、何千年も前から言われてきたけど、それは誰かが決めたことであって、別に主役でもいいんじゃないかって考えるようになりました。

例えば、編み物が出来ないお母さんでも、色々な糸を組み合わせて自分の子供の洋服のポケットにつけたり、靴紐にしたり、それだけでもオリジナルなファッションになるんです。糸自体が主役になるんです。
ただし、主役になるような糸をつくらないといけない。主役になるためのブランディングをしなくちゃいけない。それぞれプロモーションもします。
今まで、誰も供給してこなかったし、仮にこれを出した時に、全くゼロから新しいビジネスをつくらなきゃいけないんです。
この糸を見た時に、ヨーロッパやアメリカ、日本のデザイナーがどういう反応をするかというと、「何処で買えるんですか?」って言うんです。要は、自分のブランドで使うんじゃなくて、自分の個人的な洋服で遊びたいって、皆そう思ってくれたんです。世界中のデザイナーが自分の個人的なものに使うために欲しいと思うってことは、そういう市場があるってことなんですよね。

新しい糸のブランド「アクセサリーヤーン MASAKI」の糸。

様々な色の糸を使ったもの、飾りのある糸等、今まで見たことがないような糸の数々は見ているだけでも楽しく、自分が使うならと想像力をかきたてられる。レースやビーズ、ストーンと組み合わせてオリジナルのファッションが出来るのは女性には特に嬉しい。糸の種類によっては、男性が使えるカッコイイ糸も揃っている正に主役になる糸。

佐藤繊維社の新しいブランド「アクサリーヤーン MASAKI」の糸

どちらかというと、こういうビジネスは、日本人は苦手な人種なので、ヨーロッパやアメリカの方が成功する可能性がありそうですが、これを売る流通がないんです。日本にもありません。
だから、今回、自分達が今までの手芸糸じゃない新しい「アクセサリーヤーン」という流通を日本からつくろうとビジネスを始めました。
作品をホームページにたくさん掲載しますが、お客様にも自分でつくった作品を投稿してもらって、月に1度表彰します。表彰された方には、どこでも買えないし誰も持っていないオリジナルヤーンをプレゼントするんです。
こういう糸で自分だけのオリジナルなものがつくれると、小学生や中学生、高校生だけでなく、主婦の方やOLさん、ご年配の方、男女問わずに楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

「アクセサリーヤーン MASAKI」のホームページ。

ホームページでは、髪飾りやアクセサリ、靴紐等、新しい糸の使い方を提案している。自分がつくった作品を投稿することもできる。

佐藤繊維社「アクサリーヤーン MASAKI」のホームページ

Q.将来に向けての「夢」がありましたらお聞かせ下さい。

山形から新しいビジネスを中央にそして世界に発信し、新しいモノの販売、トレンドを地方からつくっていきたいですね。
今までは市場のある世界でビジネスをしてきましたが、これからは何もない全くゼロのところから、糸、商品をつくって、情報を発信して、新しい市場をつくるというビジネスを始めました。
世界の新しいファッション、インテリア、フラワーアレンジメント、文具、全ての分野と我々のブランドとのコラボレーションというトレンドをつくっていきたいです。

これからは、東北の企業が、一歩前にでて市場に出て行くことをしないといけない。いつまでも言われたことをやっている時代じゃない、そう思いますね。

佐藤繊維社の布地

糸を編むだけではなく、織物の職人との共同開発によって布地をつくることもあるという。カラフルな色遣いと個性的なデザイン等、布地にも同社のセンスと技術力があらわれている。

プロフィール

佐藤繊維社ロゴ

社名

佐藤繊維株式会社

創業

1932年8月

本社

〒991-0053 山形県寒河江市元町1-19-1

代表取締役社長

佐藤 正樹

従業員数

130人

佐藤繊維社本社

佐藤繊維株式会社 (以下「佐藤繊維」)は、1932年(昭和7年)に地元山形にて創業者佐藤長之助氏が羊を育て、その羊毛を原料とした毛紡績業を興したのが始まり。その後、紡績部門を中心にニット製造部門、アパレル部門を増設し、一貫してニット分野での成長を目指す。

紡績部門として2007年7月に初参加した、イタリアで開催される世界最大規模のニット素材展示会Pitti Immagine Filatiにおいて、各国のバイヤーより高い評価を得る。一方アパレル部門では、2001年より発表の場を日本国内にとどめず、ニューヨーク、ロサンゼルス、コペンハーゲン、そしてパリと、世界各都市での製品展示会に参加し、海外での評判は年々高まっている。

関連リンク

編集後記

編集後記

糸・・・私達が着る洋服、和服、身につけるものは数えきれない程の糸を使った糸からできています。
でも、普段、糸を意識するのはボタンや生地と生地を縫いつけるものとして意識することの方が多いかもしれません。セーターや帽子等、ニット製品でもあまり意識していないような気がします。
そんな私が「糸」を意識するようになったきっかけは、ミッシェル・オバマ大統領夫人の黄色いモヘアのニット。
元々、モヘアが大好きな私は、夫人が来ていたニットが爽やかで素敵だなという印象を持っていて、そのモヘアの糸を山形県の企業がつくっていると知ってからでした。
同じ東北に住む一人として、とても嬉しい気持ちになったことを思い出します。
今回、佐藤繊維社にお邪魔して、流行と伝統の調和の「糸づくり」を感じました。
「糸をつくる」という伝統を受け継ぎながら、それを新しい形で発信する。そして、新しい発想で主役になる糸をつくりだす。
また、同社では、40年以上前から使用している機械で糸を紡いだり、ニット製品を編んだりしています。新しい機械よりも適しているそうです。
「流行の先端を行くブランドに提供している素材」「オリジナリティ溢れるニット製品」「見たこともない新しい発想の糸」、それらの流行を昔から使っている機械でつくっていく様子を見て、とても感動しました。
お忙しい中インタビューにお応えいただきました佐藤社長、工場をご案内いただいたり、お仕事中にも関わらず常に笑顔でお迎えいただいた社員の皆様、ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
インタビューの後、欲しいと思ったニット製品が「SoldOut」でした・・・また次の楽しみに!その気持ちが分かったような気がします。

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